講座「子どもの貧困問題と対策に参加しました」 2017年5月26日

 

 5月26日(金)長野県生涯学習センターの講座「子どもの貧困問題と対策」が行われました。講師は社会運動家湯浅誠さん。湯浅さんは2008年末に年越し派遣村村長を務め、その後内閣府参与、内閣官房社会的包摂推進室長、震災ボランティア連携室長など務めた後現在は法政大学現代福祉学部教授を務めています。参加者は270人、センター講座としてはこれまで最高の参加者数です。

 

◎高校生の声

 「この世に生まれてきてんから、はらいっぱいたべて大きくなりたい」「電気代などを私のアルバイト代などで払っています。家のボイラーの修理ができず、お湯が出ないので水のシャワーを浴びています」「正直あした食べるご飯に困っている。自分が早くじりつできたらとなんどもふさぎこんだ」「バイトなどの疲れで、授業を寝てしまいがち。成績も下がり、バイトの量を減らすなどしたい。給料ももっともらえたら、給料へらずに、休めたりできて勉強の時間も増えるし、睡眠時間も今より増えるかなと思っています。助けてください」「今高校2年生ですが、どうしても授業料が高いので、塾に行くことをあきらめなければいけませんでした。その時、私たちは普通の家庭と違うのだと思ってしまいます」「友達はみんな専門学校に行くらしいけれど、俺は行かずに働いて、母さんを助けたい。父さんみたいに30代で死んでほしくない。このままだったら父さんと一緒で病気で死んでしまう。いつまでも元気できれいな母さんでいてほしい」

 これは現在NHKの職員で、自身も母子家庭で苦学した「りょうへいくん」が取材で拾った高校生の声です。

 

相対的貧困

 自分自身の思う人生を拓けない、未来を思い描くこと自体ができない、生きている実感、楽しさが得られない、そういう貧困の状況に置かれた子どもたちが、現在国内で6人に一人と推計されています。

 現在途上国などで生存の危機に置かれている子どもたちの状況を絶対的貧困といいますが、ここでいう貧困とは「相対的貧困」。これは経済的な格差の拡大により、最初の高校生たちのつぶやきで紹介したように、自分の人生をあきらめてしまった子どもたちの状況を言うそうです。いわゆる先進国の中で相対的な貧困率が一番低いのはデンマークで5%であるのに対し、一番高いのはアメリカで17%、日本はアメリカに続く16%だそうです。

 貧困はイコール貧乏ではなく、そこに孤立が加わった状況を指すそうです。

 

◎貧困を克服するために私たちができること「親たちの代わりに援助する」

 「みほさん」は6人兄弟の3番目。中学時代、兄二人は家を出て、幼い弟や妹3人の面倒を見るために、自分は中学を出たらすぐ働こうと考えていたそうです。けれども本当は保育士になりたかったそうです。あるとき彼女のことが新聞に取り上げられて、その新聞を読んだ京都市在住で75歳のMさんが彼女にお金を出してくれて彼女は短大に進学し頑張って保育士になることができました。Mさんは2年間の大学の学費250万円を出してくれたのですが、決して裕福な家庭ではなく、15年間民生委員をつとめていた時に使わずにためていた手当と、病気で入院した時に下りた保険金の残りを原資でこのお金を工面したそうです。

 これくらいのことしかできないけれど、自分でできることをやる。こういう行為の積み重ねで社会を作っていこうという心構えが大事だと、湯浅さんは言います。

 

◎貧困を克服するために私たちができること「学習支援」

 生活保護世帯や低所得世帯に対する住民グループによる学習支援の取組は現在、東京だけで100を超えているそうです。埼玉県では高校教師のOBがNPOをつくり、高校進学世代の子どもを持つ、そういう世帯600世帯を訪問し、学習支援のニーズ調査をしたそうです。調査前は自分たちの調査に果たしてどれくらいの世帯が協力してくれるのか不安があったそうですが、予想に反してほとんどの世帯が調査に協力してくれました。そして「自分たちのことが忘れられていなかったんだ」という言葉を返していただいたそうです。そして高校進学に向けた学習支援の教室を開設したところ、500人が参加しました。そしてこのうち4分の1は不登校でした。取組の中心のSさんは、次に高校に進学した生徒たちが進学した生徒たちの中退予防のための学習支援に取組みました。そして現在は小学生の登校支援に取り組んでいます。

 Sさんは子どもが学校に行く条件は4つあるといいます。「①朝起きられる」「②学校に行くための支度を整えられる」「③朝食を食べられる」「④自分がいない間、家で何も起こらないという安心感がある(家庭が円満である、親がちゃんと家にいるなど)」

 

◎貧困を克服するためにできること「子ども食堂

 ここ数年子ども食堂の取組は全国で急速に拡大し、現在500カ所は開設されていると推計されます。子ども食堂は家庭で満足に栄養のある食事をとる子のできない子、親が仕事で不在のため孤食とならざるを得ない子どもを対象に行おうとしてもなかなかマッチングしません。一般的には家庭の状況に関わらず、地域の中の子どもたちの居場所として「みんなの食堂」「地域食堂」などの名前が付けられて運営されている例もあります。

 近江八幡市のKさんの「むさっこ食堂」は、「こんにちはで終わらせない地域づくりをするため」に取組んでいるそうです。食堂には子どもたちだけでなく、地域の大人たちにも来てもらい、地域の様々な人たちが集い、地域の茶の間のような存在にしていきたいという思いの元、子ども食堂に取組んでいそうです。

 

◎子どもたちが健全に育つための大事なエッセンス

 湯浅さんは子どもたちが健全に育つためには4つの大事なエッセンスがあるといいます。

 ▽ もの

 それは例えば学習を教えてくれる場や機会、子どもの食堂のような場やそこで得られる食事

 ▽ 体験

 例えば孤食により、鍋を囲む経験をテレビなどでしか疑似体験できていない若者がいるそうです。体験を人は引き出しが増え、人生の選択肢が豊富になります。

 ▽ 時間

 子どもや若者たちにとってかまってもらえる時間、自分たちを見てくれる時間です。このことは大人たちにそういう時間があるのかという問い直しでもあります。

 ▽ 必要なことをつなげられるネットワーク

 

◎アボイデッドコスト

 2月19日に飯田市公民館が主催した解体新書塾の場で、講師となった船木成記さんが話してくれた「アボイデットコスト」という考え方を思い出しました。

 アボイデッドコストとは回避可能なコストを意味します。アメリカの社会起業家であるロザンヌ・ハガティさんは、代表を務めるNPO法人コモングラウンドが取組んだ、ホームレス支援の取組みを例としたお話です。ロザンヌさんは、ニューヨークの中古ホテルを買い取り、そのホテルをリニューアルし、ホームレスの住まいとして提供する事業に取組みました。この取組で既に2000室以上をホームレスに提供した結果、最初に事業を起こしたタイムズ・スクウェアではホームレスが87%も減少し、殺人事件は0となり、窃盗事件も80%減少しました。彼女が使った費用は1万5千ドル、それに対して彼らを病院に収容すれば年40万ドル、刑務所に収容すれば年6万ドルの経費が掛かることと比較すると、驚くほど少ない経費で済んだだけでなく、貧困→犯罪→貧困…という悪循環を断つ、根本的な解決が実現したという話です。

 相対的貧困の問題を解決するために様々な政策が打ち出されており、そういう政策は大変大事だと思いますが、貧困=貧乏+孤立であるとすれば、まず地域において孤立の状況を何とかするための学習支援や子ども食堂などの取組を通して地域の中でこの問題に向き合う風土を形成していくことが必要です。そしてそういう地域風土とともに、貧困な状況を脱するための政策として例えば給付型の奨学金制度を普及させることで、孤立の状況を脱している子どもたちにとって、自分の人生の選択肢を増やす進路を自らの意志で選択できるようになるかもしれません。

 

◎公民館の役割

 基礎自治体の役割は公共の福祉。福祉とは「人々の幸せ」を意味しますが、ある人が何らかのハンデキャップを持っていてもそのハンデの克服をサポートすることで、幸せを追求することができるとすれば、そこに自治体の役割があります。

 地方自治は住民自治と団体自治で構成されます。住民自治とは自分たちの問題を自分たちで解決すること。地方自治の土台はそういう住民自治が地域でどれくらい実現できているかという点にあり、団体自治はそういう住民自治の伸長を支えながら、そういう住民自治の上にあることが必要です。

 公民館は学びや交流を通して自治の担い手が育つ場所、そして担い手である住民を支える職員が育つ場所です。

 ハンデは地域における課題でもあります。地域の課題に気づき、解決する取り組みこそ公民館が求められている活動です。

 子どもの貧困に取り組む公民館活動、ぜひ広げていきたいですね。