南信地区公民館運営協議会研修会の講師を務めました 2017年7月19日

〇 南信地区公民館運営協議会研修会

 7月19日(水)、下伊那郡豊丘村公民館「通称:豊丘村学習交流センターゆめあるて」で、南信地区公民館運営協議会役員会・研修会が行われました。参加者は80人、南信各地区公民館の館長や主事の皆さんです。このうち午前中の研修会の講師を担当させていただきました。

 テーマは「公民館は、村を育つる慈母である~地域づくりと公民館」、この言葉は現在の飯田市竜丘公民館(創設時は竜丘村公民館)の開設式が行われた昭和23年3月、当時の竜丘村村長のあいさつのまとめとして「町村行政が村を守る父親とすれば、公民館は村を育つる慈母であることを祈って祝辞とする」という言葉からの引用です。当時は教育委員会制度が確立されておらず、公民館という言葉を教育委員会に置き換えることもできますが、地域においては公民館が担い手が育つ場、ととらえることができ、これは現代にも通用する考え方です。

  簡単にお話しした内容を紹介します。

 〇 公民館の始まり

 公民館は戦後「戦争の反省による民主主義の学校」「戦争によって荒廃した郷土復興の拠点」などを目的に設置された日本独特の社会教育施設です。

 草創期の特徴は「市町村立であること」「運営の主体として住民から選ばれた専門部会が設置されていること」「より身近な公民館として分館が作られたこと」などです。

 そして公民館運営の土台には、封建的な地域や社会を変えていきたいと願う青年会や婦人会が核となっていました。

 

〇 「信州型」公民館の特徴

 信州型公民館の特徴は4つ。

 「専門部会や分館制度など、草創期の姿が続いていること」

 「他県他地域の公民館が公民館長や主事など職員が事業を企画し、住民はお客様となってしまっていることに対して、運営の主体が住民であるというスタイルがつついていること」

 「公民館活動に関わったことがきっかけで地域の諸活動の中心メンバーとして育つ、地域自治の担い手が育つ役割を果たしていること」

 「地域住民の暮らしに根付いた存在であること」

 東京大学の牧野研究室と飯田市は8年前から共同研究に取り組んでいますが、牧野先生の指摘に飯田の人たちは公民館に関して面白い言葉遣いをする。それは「公民館をする」という言葉遣い。ふつうは「公民館に行く」。公民館を施設ではなく自分たちの活動として大変身近にとらえていることがわかります。

 〇 飯田の分館・専門委員会の活動から

  ▽ 伊賀良三日市場分館の活動から

 三日市場分館では毎年飯田市で開催される日本最大の人形劇の祭典「いいだ人形劇フェスタ」に分館有志で「スリーディマーケットシアター」という人形劇団を作り、創作劇で参加しています。昨年度は地元の昔話をモチーフとした「みっかぼっちと村のオニ騒動」。村の悪い役人と、貧しいけれど心優しい少年「かん太」が村人と力を合わせて戦う物語です。人形劇創作の活動に取組んだるらぃは4つ「多地元の歴史や文化を子どもたちに伝える」「大人たちが楽しく頑張っている姿を子どもたちに見せる」「劇を通して人のつながりの大切さを子どもたちに伝える」「活動を通して地域の結び付けを強める」、どんな事業でも思いやねらいをもって臨むことで地域の課題につなげることができるという例です。

  ▽ 鼎名古熊分館の活動から

 鼎名古熊分館には演劇クラブがあります。平成27年度は戦後70年を記念した平和をテーマとした劇、平成28年度は若者たちのUIターンをテーマとした劇など、演ずる楽しみと、地域や社会の課題を結び付ける活動をされています。

  ▽ 上郷下黒田分館の活動から

 東日本大震災で大きな被害を受けた石巻市雄勝町に、地域に残る高齢者を元気づけることを目的とした「オーリンクハウス」という公民館のような施設があります。地元出身で都会に出て行ってしまった活動が震災を機にふるさとに戻った若者たちです。高齢者が利用しやすい活動を学ぶために、上郷下黒田分館の視察に訪れました。

 上郷下黒田分館には公民館役員OBが中心となり、遊休農地を活用した「農園の会」というグループがあります。皆で野菜を作ったり、作った野菜を料理して地区の文化祭などに出店する活動に取り組んでいます。

 農園の会の皆さんはオーリングハウスの若者たちを自分たちの育てた野菜を使った料理でもてなしてくれました。若者たちは最後に「雄勝地区のお年寄りがオーリンクハウスをやるといってくれるような活動を目指します」と答えてくれました。

  ▽ 鼎上茶屋分館の活動から

 東京大学牧野研究室との共同研究で上茶屋分館を訪れた際、分館の女性や君の方たちがお茶飲み話から地域のお年寄りの暮らしが話題となり、お弁当を作って届ける活動につながった例を話していただきました。日常の暮らしの中から自然につみあがっていく延長に地域の課題と向き合う活動が生まれた例です。

  ▽ 龍江公民館新聞部の活動から

 龍江公民館の龍江新聞は月刊で地区外にも送る文字度通りの「新聞」です。新聞部員のK君は郵便局員で10代に部員となり20数年の活動歴です。新聞づくりの経験から地域へのまなざしが育ち、労働組合の委員長を務めています。H君は市職員20代から新聞部員を務めやはり20数年の活動歴です。森林保護の問題に関心を持ち、森林インストラクターの資格を取り、森林保護の活動にも力を入れています。専門委員の活動がきっかけで、地域や社会の問題に関心を持ち、自治の担い手として育っています。

 

〇 公民館の活動を進めるうえで大切にしたいこと

 公民館の大先輩で地域づくりグループ「ひさかた風土舎」代表の長谷部三弘さんは常に「地域にとっての公民館」「私にとっての公民館」という自分事として公民館を感がる視点を大事にしています。私なりに考えてみました。

 

 ◎ 地域にとっての公民館

  ▽ 「観客のいない芝居」

 竜丘村公民館の初代教養部主事橋本玄進さんが竜丘村公民館報創刊号に乗せた言葉です。「公民館には特定の役者も演出家も用意されていない。舞台装置も脚本家も何もかも一切合財皆がやるのだ。そして観客は一人もいないのである。面白い芝居を観ようとするのではなく、良い芝居を演じようとするのである。公民館には観客は一人もいないのである。」今も通じる言葉だととらえています。

  ▽「準備のための話し合い」「文化祭や運動会」「慰労会」などにも学びがあります。学びを広くとらえることが大切です。

  ▽ 「人がつながる」「他人の意見で気づく」「話し合いながら組み立てる」など、取り組みの過程が大事であると考えています。

  ▽ 日々の暮らしの中から地域や社会の課題につなげていくような視点が大事です。

 

 ◎ 私にとっての公民館

 ▽ 私自身が公民館の主事や地域で公民館の役員を務めた経験から得たことです。「引き出しが増える」「つながりが広がる」「社会が広がる」「ものの見方や考え方が深まる」

 

〇 地域学校協働活動の推進と社会教育法の改正

 今年4月に社会教育法が改正されて、社会教育の役割の一つに「地域学校協働活動の推進」が加えられました。現在県内ほとんどの小中学校に取組みが広がったコミュニティスクールが学校運営協議会という機能を通した地域と学校が協働して子どもたちを育てるための「頭脳」とすれば、地域学校協働活動は「身体」ととらえています。すでにコミュニティスクールの取組みの中でほとんどの学校で「身体」も動き出していますが、この活動が一層大事であるということが裏付けられたととらえています。

 少子高齢人口減少の進展の中で、持続可能な地域づくりのために自分たちの後を託すことができる次世代育成は一層重要な課題となっています。コミュニティスクールは次世代育成の柱の一つととらえています。この活動に多世代が関わることで、関わったシニア世代や親世代にとっても自身の役割や居場所ができる、そういう視点が大事です。

 そのためには子どもたちに背中を見せることができる大人の学びが必要で、ここに公民館の役割が期待されていると考えています。

 〇 公民館は、村を育つる慈母である

 「田園回帰」で知られる島根県邑南町の盛んな活動の土台には公民館活動がありました。「村を育つる慈母」としての公民館の役割を果たすためには、活動を通して自治の担い手が育っていくという視点を大事にすることと、そういう担い手が育つ公民館活動を支える側の職員が学び力をつけていくことが必要と考えています。