生涯学習センター講座「地域から支える私たちの新信州学」に参加しました 2017年8月19日

〇 地域から支える「私たちの信州学」

 8月19日(土)長野県生涯学習推進センターの主催講座「地域から支える『私たちの信州学』」に参加しました。

 「信州学」とは、「自らが生まれ育った地域の文化・産業・自然を理解し、ふるさとに誇りと愛着を持ち、大切にするための学び」で、「地域に根差した『探求的な学び』」の総称です。長野県教育委員会では、信州学をすべての県立高校で取り入れるよう、テキスト「私たちの信州学」を作成し、生徒たちに配布しています。信州学の取り組み方は学校によって自由で、総合的な学習の時間、職業科の課題研究、国語や社会などの強化の中などさまざまな形で実践されています。

 講座では松本県ケ丘高校、北部高校、松川高校の取組が紹介されました。

 〇 RESASを活用した松本県ケ丘高校の取組

 松本県ケ丘高校では、すべての1年生が個人又はグループで、総合的な学習の時間に、総務省が作成した「地域経済分析システム(通称REASAS)」を活用し、生徒自身が関心を持ったテーマを課題とし、課題について調査分析した結果を年度末の発表会で披露します。「高齢者介護を学生と一緒に」「松本市の人口を増やす手段を考えよう」「木曽町開拓」「松本ぼぼんで地域活性化を」「スポーツに頼らず長野県を訪れる観光客を増やすには大王わさび農場について知りたい、知ってもらいたい」「リッチ・マツモト計画」「浅間温泉をレット活性化」「朝日の差し込む村づくり∞森ではぐくむかぞくの愛∞」「長野県の負のスパイラル大問題!!昆虫食で解決します」昨年度の優秀作です。

 このうち昆虫食についてまとめた内田佑香さんと横山瑠奈さんは、総務省が主催する地方創生・政策コンテストで最優秀賞を受賞しました。その概要は少子高齢人口減少や後継者問題や遊休農地の拡大で停滞する長野県農業を、昆虫食の普及を核に解決につなげていこうという内容で、図書館などでの調べ学習、280人を対象としたアンケート活動、有識者への聞き取りなど多角的で、研究終了後も自分たちで考案した昆虫食パウダーの成分分析を長野県の職員研究センターに持ち込んで調査するなど、「探求的な学び」のお手本ともいえる研究活動でした。

 〇 100人を超える地域住民が支える北部高校の地域授業

 北部高校は飯綱町にあり、旧牟礼村・三水村両村による組合立で生まれた高校です。20年以上前から「住民と作る『地域授業』」に取組んでいます。「地域で地域を地域に学ぶ」をキャッチフレーズに、1年次はリンゴ栽培と収穫後の加工、伝統的地場産業学習、福祉、地域の民話学習などの体験学習を行い、2年度は「自然」「歴史」「ボランティア」「保育」「郷土料理」「りんご」の6つのテーマに分かれて調べ学習をし、地域に何らかの形で還元し提案することを目指しています。

 北部高校の地域学習の特徴は、100人を超える地域の方々が、積極的に生徒たちの学習を支えていることです。今回は地域で職に関わる女性グループによって組織した「だんどりの会」代表の宮本久子さんから高校生とのかかわりについて、報告していただきました。

 〇 公民館が呼びかけた、松川高校の「地域デザインプロジェクト」

 松川高校の取組は、松川町公民館元公民館主事の望月貴生さんから報告していただきました。松川高校も元々は松川町や周辺町村による組合立の地域高校で、地域とのつながりの厚い高校です。今回報告された「地域デザインプロジェクト」は、松川町公民館が高校に呼びかけて実現した取り組みです。

 平成23年度長野県公民館運営協議会の特別委員会は「長野県らしい公民館に磨きをかけるために」という提言を発表しました。この中で、持続可能な地域を作るために若い世代へのアプローチが提言されました。

 このことを受けて松川町公民館では公民館主事と専門委員会社会部のメンバーが話し合い、そのことに基づいて松川高校との取り組みが始まりました。松川町公民館の専門委員の88%は20代、30代の青年世代です。専門委員と高校生との話し合いの中で、地域を元気にするオブジェづくりを行うことになりました。

 〇 パネルディスカッションから

 松本県ケ丘高校は高校主導、北部高校は地域主体、松川高校は公民館がつなぎ役と取組みの形は様々ですが、事例発表後のパネルディスカッションから地域と高校生を結んだ教育活動を進めるうえで、共通する大事な要素が見えてきました。以下に印象に残った発言をご紹介します。

〇 信州学を学習の質を上げるためのきっかけに~松本県ケ丘高校長永原経明さん

 信州学を、生徒たちの学習を高めるために生かしていきたいと考えています。生徒たちの「なぜ」や「こうしたい」が原点となり、広域的に集まってきた生徒たちがそれぞれの生まれ育った地域において関心のあるテーマを題材に調べ学習を深めていく。そしてそれを公開の場で発表する機会を作ることで学びを深めていく。

 課題としては専門性持つ人たちとどのようにつながっていくのか、そういうパイプが少ないこと、そして教師側がまだまだ探求的学習の意味を理解できていないことなどがあります。

 〇 一つの物語を繰ることのできる学習を~北部高校長市川裕子さん

 地域学習は生徒たちの学習の質を高めるために有効です。これからの進め方について3つの方向を考えています。

  1. 生徒たちが自分の取組を通して、一つの物語を作ることができような学習を実現していきたい。そしてその学習は総合的な学習の時間に限らずに、国語、社会、理科、数学などの教育課程の中で実現していきたいと考えています。
  2. 本当に多くの地域の方たちに支えていただいていますが、そういう地域の方たち同士が生徒たちの教育に関わっての意見交換を行う機会を持つことができるとよいと考えています。
  3. 松本や飯田のように社会教育・公民館の活動が盛んな地域で熱心に社会教育の仕事に取組んでおられる方たちに出会ってきました。これからは、学校教育と社会教育が融合された学校づくりが実現できることを期待しています。

〇 孫たちのためにうるさいおばあさんでいよう~飯綱町だんどりの会長宮本久子さん

 私たちは生まれ育ったこの地で営んできた農や食に本当の意味での豊かさがあるのではないかと考え、だんどりの会を設立しました。会で伝えたいことは「『農のある豊かな、まちづくり』今、ここにあるものを生かすことから このまま灰になるわけにはいかない!孫たちのためにうるさいおばあさんでいよう」です。

 300人の生徒たちが町にいてくれるということだけで力になっている。町以外から通う子どもたちも含めて自分たちの次の世代を担ってくれる若者たちとして育てていきたいと思います。

 〇 若者たちの熱意を発揮して町を元気にしたい~元松川町公民館主事望月貴生さん

 公民館の専門委員も20代、30代、公民館活動がきっかけとして地域で大事な役割を担っていきます。そしてこういう若い世代と高校生たちが結びつくことで、ともに学び育っていくような活動が大事だと考えています。

 〇 信州学を通して、ものさしづくりを

 飯田風越高校国際教養科では、2年次に課題研究として生徒一人ひとりが課題を持って地域のことを調べています。かつて同校の先生と何故この取組を始めたのか話をしたことがあります。国際教養科では毎年短期の海外ホームスティを行っていますが、初期の頃ホームスティ先でホストファミリーから、自分たちの生まれ育った地域のことを聞かれても答えられることがなく恥ずかしい思いをしたという生徒が多くいたそうです。自分が生まれ育った地のことを知ることの意味の一つは、他の地域に旅した時にその地のことを測るものさしとなるということです。

 飯田市公民館が主催する高校生講座カンボジアスタディツアーでも、1週間のカンボジアツアーの前に半年間をかけてふるさとのことを学びます。今年6月に行われた報告会では3つに分かれたグループから「自立について」「幸せについて」「笑顔の裏側にあるもの」という発表をしてくれました。これら発表も飯田での経験と、カンボジアの経験を重ねる中で生徒たち自身がテーマを設け、皆で話し合い、まとめ上げたものです。

 ものさしづくりとしての信州学を位置づけることも必要ではないでしょうか。

 〇 高校生たちの育ちのための4つのきっかけ

 飯田市公民館主事で高校生教育を担当している小島一人君は、7月22日に行われた阿部知事とのランチミーティングで、高校生たちが育つために4つのきっかけがあるとまとめてくれました。

  1. 素敵な生き方をしている大人たちとの出会い
  2. 一緒に取組んでくれる仲間の存在
  3. 自分が必要とされていると感じた時
  4. 取組について考え発表する機会

 今回の講座の高校生たちの育ちの様子からもこれら4つの機会を垣間見ることができました。

  地域と高校生を結ぶ取組み、ぜひ広げていきたいですね。そしてこの取組のつなぎ役として公民館が役割を果たすことができれば、公民館の存在感も大いに増すのではないかと思います。