関東甲信越静公民館研究大会に参加しました 2017年8月24日、25日

 

 8月24日(木)、25日(金)群馬県前橋市の文化会館で、関東甲信越静公民館大会が行われました。参加者は700人、初日は全体会で全国公民館連合会による優良職員表彰、基調講演、レセプションなどが行われました。

⚪ 青山学院大学教授の鈴木眞理さんの講演から。

 基調講演の講師は青山大学教授の鈴木眞理さん。テーマは「生涯学習、社会教育、公民館~期待と現実と展望と」。講演の主旨は最近の社会教育や公民館ををめぐる国の政策や社会の動きに対する危惧と、戦後草々期の公民館、社会教育の原点に立ち返ることに必要を提起する内容でした。

⚪ 大事なのは手法ではなく主体の形成

 文科省は今年の3月、「学びを通じた地域づくりに関する調査研究協力者会議」による「人々の暮らしと社会の発展に貢献する持続可能な社会教育システムの構築に向けて」を発表、学びの成果を地域づくりの実践につなげる「地域課題解決学習」を社会教育の概念に明確に位置付けました。

 この事にたいして鈴木教授は「地域課題解決学習」が大事なのは当たり前のことで本来の社会教育が志向してきたことであり、こういう論議か行われている教育をめぐる状況を危惧しています。

 例えば世界陸上で感動や勇気、元気を与えられたという表現がよく使われていますが、感動や勇気や元気は本来、与えられるものではなく自らの心の中から内発的にわいてくるもの。「⚪⚪を頑張る」という言葉遣いが最近見られるがこれも本来は「頑張って⚪⚪する」ということ。問題なのは主体が喪失し、外から与えられる状況となっていることです。

〇 手法ではなく社会教育という教育の内容を追求する

 新しい学習指導要領では「アクティブラーニング」が注目されています。しかしこれはあくまでも教育の技法。本当に大事なのは学習課題など教育の内容という基本に立ち返ることです。

 社会教育は本来総合的で自由な教育で、学校教育と異なるタイプの教育です。

ある研修で公園を舞台に子どもたちの遊び場づくりのワークショップに取り組んでいたとき、参加者ではない少し突っ張った雰囲気の若者が傍らでその研修を見ていました。学校教育であれば若者たちにそのワークショップがかき回されないように心配したかもしれないけれども、その時彼らにも声をかけて見たら嬉々として参加してくれた。学習者まで変わってしまうという柔らかさは社会教育であるからこそできたことです。

 最近の社会教育主事講習では社会教育の経営という言葉が使われます。経営とはあらかじめ与えられた条件の中で特定の人が決めていく行為、本来大事なのは皆で作り上げていくプロセスを大事にした社会教育計画です。社会教育計画を皆で作り上げることで社会教育の内容と人の継続性が担保できるはず。社会教育の総合性が衰退している。

⚪ 元々公民館は地域課題解決の拠点として誕生した

 小学生の教科書で公民館の役割を人々の楽しみを提供する機関と紹介しています。しかし戦後草々期の公民館は、地域課題解決の拠点として誕生しました。公民館使用の有料化が取りざたされていますが、課題解決の拠点から楽しみを提供する場所へと公民館の捉え方の変化が有料化の背景にあるのではないでしょうか。

⚪ 自由で多様な社会教育の実現を

 社会教育法の改正で社会教育事業のひとつとして地域学校協働活動が加えられました。学校教育の一貫として社会教育が動員されようとしている。そうではなく学校教育と同等の存在として社会教育はあるはずです。皆が異なっていることを認めることができるのか社会教育です。学校教育で最近インクルーシブ教育が言われていますが、社会教育ではそれが本来の姿、社会教育の方が先進性を持っています。

 行政の枠にとらわれない、自由で多様な社会教育、公民館の活動に期待します。

 辛口ですが、示唆にあふれた講演でした。

 

【第10分科会 公民館職員の専門性】

 関東甲信越静公民館大会の二日目は10分科会が行われました。

 私は第9分科会「公民館職員の専門性」に参加しました。

 司会は君津市周南公民館主事の中村亮彦さん。助言者は千葉大学非常勤講師の越村康英さんです。

⚪ 千葉県内公民館職員の現状と研修をめぐる課題

 最初の発表者は君津市小糸公民館主事で千葉県公民館連絡協議会研究委員会の前副委員長の會澤直也さんです。

 千葉県公民館連絡協議会には館長部会、主事部会の他広報委員会、研修委員会、検討委員会が組織されています。今回は研究委員会による千葉県内公民館の研修の実態について報告していただきました。

 研修は市町村や郡単位で量や内容にずいぶん差がありますが、緻密な分析に基づいた6つの提言が大変参考になりましたので紹介します。

 1  各自治体に対して、より良い公民館体制の構築と研修権の保障に向けた申し入れを行う

 2 公民館職員が緩やかなネットワークを築いていけるような仕掛けを講じること

 3  研修の記録化とその有効活用を進めること

 4  独自に研修を実施することが困難な単位公連や自治体に対し、実施に向けた支援を行うこと

 5  研修の開催場所を固定せず、県内各地での開催を試行してみること

 6  公民館職員に求められる「専門性」「資質・能力」や「力量形成のプロセス」などについて研究しその成果を研修にも反映させていくこと

 公民館職員の力量形成をテーマとした報告をお聞きし、千葉県公民館連絡協議会の力を実感すると共に、私が長野県で与えられている役割にも大いにつながる内容で、大変参考になりました。

⚪ 前橋市の公民館職員研修とワーキングの取り組み

 二人目の発表者は前橋市宮城公民館館長補佐の藤原直樹さんです。前橋市と合併する前の宮城村公民館主事から通算で30年の大ベテランです。

 前橋市は教育振興基本計画の中に公民館職員の力量形成が書き込まれています。それだけ公民館の位置付けが大きいことにまず驚きました。

 そして計画の柱のひとつに生涯学習三つの仕掛けとして「子育てを支援する仕掛け」「公民館という仕掛け」「学びを身に付けた人々からの仕掛け」を推進することとし、公民館の仕掛けの視点として「この学びの場のみに機能していないか」「社会教育の拠点となり得ているか」「地域コミュニティの再構築の場として機能しているか」としています。

 また前橋市独自で90ページに及ぶ公民館活動の手引きが作られ、公民館の歴史、原理、具体的な事業の組み立てプロセスなどが間とられています。

 また主事会では毎年ワーキングチームを組織してその時々の公民館や社会をめぐる課題にアプローチしています。

 公民館主事として求められる力量としてファシリテート力を求めています。

 ⚪ 助言者から「公民館主事に求められる資質・力量と研修」

 最後に千葉大学の越村さんのまとめの中から木更津市の秋元淳さんが「人生に寄り添いともに生きる公民館事業」というレポートから引用した言葉をご紹介します。

  公民館事業は人々の生き方や暮らしに喜びや驚き、希望や勇気、高揚感や達成感をもたらし「生きること」に関わる学びを創造してきました。しかし、それは決して容易にできることではない。社会教育に携わる職員、「教育」にの職に就く職員としての高い志をしっかりともって、小さなことが着実に積み重ねられなければ、その緩やかな継続の先にある「何か」を見つけることはできない。

 住民とともに歩み、時には住民の背中を押し、立ち止まって住民と一緒に考える。「for~」(~のために)ではなく、「together with~」(~とともに)の心持ちを大切にしていきたい。

 そのためには職員自信の学びが必要不可欠でもある。職員自身が何事に対しても自分自身で考え、自信をもって行動することができるようスキル(社会教育に関する知識・技術)を身に付けることがまず大切である。人との関係性を構築することへの鍛練も必要だろう。冷静な判断力(多角的に物事を考え、より良い方策をいち早く見極める力)を養う努力も必要だろう。私たちは自らの力量形成に貪欲に臨まなければならない。

 公民館のおかれている状況はさらに厳しさを増している。だからこそ公民館の目指すべき方向性を職員間でも議論し、互いの力量を高めあう努力を惜しんではならない。それは公的社会教育を担う職員瀬部ての責務でもある。人の人生に寄り添うなどということは恐らくそう簡単なことではない。だからこそ、私たちは懸命に自らに向き合わなければならない。

 公民館職員は、誰もが当たり前に願っている「幸せになりたい」「豊かな人生を送りたい」「健康でありたい」といった幸福追求の権利(日本国憲法第13条)をまず何よりも大事に考え、尊重しなければならない。