飯田国際交流推進協会で講師を務めました 2017年10月29日

 10月29日(日)飯田市役所で行われた飯田国際交流推進協会が主催するシンポジウム「多文化共生社会と小さな世界都市を語るシンポジウム」に参加しました。

 

 

〇 小さな世界都市を実現するための、連続シンポジウム

 

 

 このシンポジウムはシリーズで開催されており、5月に開催された第1回は「リニア時代と飯田下伊那の人口減少問題を考える」をテーマとし、地元経営者代表、新聞社、飯田市副市長、国際交流協会横田会長の皆さんにより、持続可能な地域づくりに向けた魅力ある飯田市づくりと、外国人労働者の受け入れなどによる人口対策をテーマとした意見交換が行われました。

 第2回目となる今回のテーマは、外国籍住民の定住・移住に向けた、飯田市や市民の備えです。

                      

〇 交流と学びで創るダイバーシティのまちづくり

 

 私は会の冒頭で「交流と学びで創る、ダイバーシティのまちづくり~多文化共生と『田舎へ還ろう』を結ぶ」とことをいうテーマで話題提供させていただきました。話の概要は次の通りです。

 ▽ 高校生講座カンボジアスタディツアーに見るダイバーシティ

 

 飯田市の公民館が主催しているこの取組は、「ふるさと飯田を学んでものさしとし」「カンボジアという異なる文化のことを学び」「自分たちの生き方・進路を考える」ことをねらいとしています。飯田下伊那の高校に通う高校生が毎年10数人10月から半年間ふるさととカンボジアについて学び、3月に1週間カンボジアを訪問、帰国後2か月間の振り返りを行い6月に報告会を行う、という8か月かけた講座です。

 昨年度の講座に参加した高校生たちは6月に行われた報告会で、3つのグループに分かれて、飯田の素敵な大人たちとの出会いと、カンボジアでの経験を重ねて報告してくれました。

 「遠山郷」グループは「笑顔の背景」をテーマとし、厳しい自然条件の中で力を合わせて暮らしている遠山郷の人たちと、貧しい暮らしの中で学校に通うことができる幸せを笑顔に表しているカンボジアの子どもたちを結び付けてくれました。

 「人形劇」グループは「自立」をテーマとし、伊賀良三日市場分館スリーディマーケットシアター久保田さんの相手を思いやる姿勢と、カンボジアで孤児院を経営している日本人メヤス博子さんが孤児たちの自立を支える生き方を重ねて、自立とは、自分自身の考えを持ち行動できることだけでなく、人は一人で生きているのではなく、周りのことをしっかり見ることができることが自立に必要であるとまとめてくれました。

 「和菓子」グループは「幸せ」をテーマとし、おまんじゅうの一二三屋さんがお客さんとのつながりを作りたいと必ずつけてくれるおまけと、親の虐待から逃れて孤児院にいるこの笑顔の背景にはここにいれば安心という信頼関係があることを重ねて、やさしさの心をつなげていくことが幸せをつくることである、とまとめてくれました。

 高校生たちは、飯田の素敵な大人たちからの学びと、カンボジアという異なる国での学びの中から、違いや共通点を探し、さらに参加した14人の高校生一人ひとりの異なる視点を重ねることで、より社会の本質に自分の言葉で迫っています。

 ダイバーシティが深い学びを実現したという例です。

 

 ▽ 日本語教室「DST」の取組みに見るダイバーシティ

 

 飯田市公民館は1997年から日本語教室「わいわいサロン」を運営しています。飯田下伊那は満蒙開拓に日本で最も多くの人たちを送り出した歴史があり、そのことにより残留孤児・婦人や2世、3世の皆さんが多く定住されています。飯田市公民館は満蒙開拓の平和学習をきっかけとし、中国帰国者の皆さんが飯田の地で「平和」に暮らすことができるためにこの取組を始めました。現在は中国帰国者だけでなく様々な国籍の方たちが参加されています。

 昨年度は新しい試みとして「DST:デジタル・ストーリー・テリング」に取組んでいます。DSTは、学習者自身が自分の紹介したいテーマを選び、テーマに関する写真とともに自分の語りを映像にまとめる学習方法です。

 これまでの日本語学習は、支援者が用意した教材を学習者である外国籍住民の皆さんが学ぶというスタイルでしたが、DSTでは、学習者が自分の思いを伝えることを通して、作品を通して学習者自身の人生観も伝わり、ともに作品を作る支援者が、学習者である外国籍住民の生き方や考え方を学ぶ取組みです。

 今年2月に行われた発表会の中でブラジル出身の杉浦麻州男さんは「わたしのすきなこと」として趣味の旅行を紹介してくれました。杉浦さんは発表会で参加者から「一番気に入った旅先は」という質問に対し、「すべて」と答えてくれました。「旅は家を出たところから始まります。仮に目的地の天候が悪くてもそれも旅の思い出の一つ、そういう旅のすべてが私の楽しみ」だそうです。杉浦さんの人柄や人生観までもが伝わってきます。

 異なる文化や言葉を背景に生まれ育った人から語ってくれる内容には、私たちが飯田の地で当たり前に暮らしていると気が付かない、飯田や日本の良さや課題に気づく機会であったり、彼ら彼女らの生き方や考え方を学ぶ機会です。

 

 ▽ 飯田市公民館の組織と活動に見るダイバーシティ

 

  飯田市の公民館活動の一番の特徴は、専門委員会や分館活動などに、現役世代の方たちが主役となり、事業の企画や運営に関わっている点にあります。職業、年齢、性別、価値観などの異なる人たちが集い共通のテーマで話し合う公民館活動は、ダイバーシティそのものです。

 

 ▽ ダイバーシティで、まちの力を高める

 

 最初に高校生の育ちの中に、異なる文化との出会いというダイバーシティの経験を通して、社会の本質に迫る学びが実現し、そのことがかられ自身の生きる姿勢にまで影響していったことを紹介しました。

 次に日本語教室の実践の中で、学習者である外国籍住民の生きてきた文化を通して形成された価値観というダイバーシティから、支援者である日本人スタッフが学んでいることを紹介しました。

 ダイバーシティとして典型的なのは多文化や多言語ですが、広くとらえると飯田型公民館の例にあるように、年齢、性別、職業、価値観、障害の有無など異なる立場の人たちが一堂に会して一つの共通した課題に対して考える機会があると、さまざまな角度から発想された意見が交流されることで、課題解決の道筋が豊富に見えてくるということです。

 そういう意味でダイバーシティは社会を強くする大事な要素としてとらえることができます。

  ▽ ハンディを埋めて、ダイバーシティの実を上げる

 

 そういう道筋の延長に、飯田市が進めようという「田舎へ還ろう」をとらえてみるという視点が大事です。

 「田舎へ還ろう」というのは、Iターンに限らず、この飯田の地で暮らしてみようという人たちを広く求めていこうという政策です。従って外国籍市民の方たちもその対象となります。

 しかし、外国籍住民の方たちが飯田で暮らしていくうえでのハンディは、言葉の問題だけでなく、職業の選択、福祉や医療制度の利活用などの現場などに多く存在しています。

 社会を強くするダイバーシティを実現していくパートナーとして多文化多言語で生まれ育った方たちが十分な力を発揮できるためには、そういうハンディを埋めていくような備えが必要です。

 そして、ダイバーシティな状態を受け止めていく私たちの意識づくりも必要です。

 そういうハンディを埋めて、安心してこの地で暮らすことができる環境を作るためには、一方では行政の政策として、他方では市民主体の活動としての広がりが求められています。

 ▽ 人口問題から人生問題へ

 

 今年の2月19日に行われた飯田市公民館大会の講師、島根県中山間地域研究センターの藤山浩さんに「人と経済を中山間地域に取り戻そう」というテーマでお話ししていただきました。

 その時に一番印象に残ったのは、人口減少問題への対応、といったとき、これを人口という数の問題としてとらえるのではなく、人生問題としてとらえてほしい、とおっしゃっていました。

 これは田舎へ還ろうと選択し、この地を選んでこられる方たちは一人ひとりご自分の人生をかけて移住されてきているということを忘れてはならない、ということです。そしてこのことは、人生をかけて飯田後に移住された方たちに対して、私たちはそれをしっかりと受け止める責任がある、ということを忘れてはならないということです。

 制度的な備え、そして私たちがその方たちの人生を受け止める備えが、何よりも大事と考えています。

  ▽ シンポジウム「外国籍住民の暮らしを支える」

 

 「多文化共生社会と小さな世界都市を語るシンポジウム」の後半はシンポジウムです。

 コーディネータは国際交流推進協会副会長の本田守彦さんです。登壇者の皆さんの印象に残る発言を紹介します。

 ▽ 子どもたちへの日本語教育に取組む 丸山小学校教諭賜美和さん

 

 賜さんは県費加配で丸山小学校の日本語教師を務めています。丸山小学校全校555人の生徒のうち、日本語教室に関わる生徒は20人、親の国籍はブラジル、中国、フィリピンで、15人はそれぞれのクラスに在籍しながら日本語教室に通級しています。

 日本生まれ育ちの子どもたちが大半であることから、生活言語は日本語ですが、学習を深めるには不十分です。日本語の読解力がないか弱い親が大半で、保護者とのコミュニケーションが課題です。幸い飯田市では各言語の通訳サポーターを配置していることから、通訳サポーターの支援で何とかコミュニケーションをとっています。

 子どもたちの課題は語彙の少ないこと。家庭で親とのコミュニケーションは母語、インターネットでも母語の情報を得ることができることから日本語の語彙を蓄積する環境がありません。しかし母語を体系的に学ぶ機会がないために、日本語も母語もしっかりとマスターできないというダブルリミテッドの状態です。

 こういうハンデによって自分に自信が持てず、アイデンティティが確立できていません。その意味で自分がこれから目標にできるようなロールモデルも必要と感じています。

 学力が上昇しないのは、宿題を与えても親がサポートできないことも理由です。その意味で親も日本語を学びながら親子共に語彙を増やしていくために、公民館などで行う日本語教室は大切です。

 親たちの日本語力が上昇しないのは、経済的に安定せず、収入を得ることで手いっぱいということも理由です。

 上田市丸子地区の日本語学級は、地域の大人たちが常駐し、日常的に子どもたちかそこを居場所とし、楽しみながら日本語を学んでいるそうです。こういう場所が飯田にもほしいと感じています。

 日本語教育だけでなく、文化や習慣の違いで日本人との軋轢のあることがコミュニケーションの壁となっています。外国籍住民や日本人が一方的にどちらかの文化に染まるというよりは、両方の文化や習慣を認め合うという姿勢も必要です。

 ▽ ベトナム人介護士を受け入れる 社会福祉法人萱垣会施設長の萱垣充英さん

 

 シルバーハウス夢の郷で、4人のベトナム人介護士を受け入れています。日本は少子高齢人口減少社会ですが、世界的には人口爆発の状況が進んでいます。また、飯田女子短期大学では介護士を養成するコースがありますが、そこで資格を取ろうという学生が定員に充ちません。そこで日本社会に必要な仕事を外国から来た人たちにまかなってもらおうということで、2008年EPA経済連携協定)の一環として職種を特定して外国人の受け入れを進めることになりました。

 EPAプログラムでは、ベトナム、フィリピン、インドネシアから介護職の受け入れが可能です。シルバーハウスで働くベトナム人介護士の皆さんは、母国の大学を出て、看護師などの資格もあり、日本語教育も一定の水準に達しています。そして日本の介護福祉士の資格を取ることを目的に来日しています。また入国後2ヵ月間語学と日本の介護制度についての研修を終えていることから、母国でもエリートで、大変優秀であり、仕事の上では安心して任せられる存在です。

 ただし、ベトナム出身者は飯田においてもごく少数で、友達や家族など、プライベートな悩みで頼る場所がないということが課題です。

 外国籍住民が地域の中で多く住まう社会をダイバーシティとしてプラスにとらえることができるためには、小中学校時代から語学や多文化を認め合うような教育活動が必要になるのではないかと思います。

 

 ▽ 飯田市立病院で医療通訳を務める 中国出身の秦文英さん

 

 飯田市立病院の医療通訳の仕事は、外来、入院、手術前後など多岐にわたります。また医師や看護師とのコミュニケーションは患者だけでなく、家族に対しても行うことが必要です。医療行為についての正確な説明と、本人や家族に安心を与えることが医療通訳には求められています。だいたい月に200人の方たちの医療通訳をしており、できるだけ速やかに患者や家族のニーズに対応するために、毎日院内を走り回っています。また、病院は24時間体制で医療をしていますから、自宅にいても電話がかかってくることは日常です。通訳のためには常に日本語力や医療用語についての知識を蓄えていくことが必要で、日々学び続けています。

 中国出身者がなかなか日本の習慣になじんでくれず、予約して検査の日に来ないとか、医師の処方する以上の薬を求めるなど、日本人から見た時のマナー違反が目につきます。日本のマナーや、日本語力を学ぶ姿勢がもっと必要だと感じています。

 ▽ 山本地域で活動する 中国出身の半崎ひろみさん

 

 1982年に残留孤児であった母親と来日し、最初は駒ヶ根に住んでいましたがその後山本に引っ越しました。地域の方たちとのコミュニケーションを大事にし、公民館が主催する「国際ふれあい交流会」や、小学校の「花の木オープンスクール」などにも積極的に参加しています。

 仕事に就くにも日本語ができないとコミュニケーションが取れず、信頼関係も生まれません。日本語の習得や地域の諸行事を通した地域の方たちとの関わりを大事にしています。そのことによって自分の生活が豊かになっていく、そういう視点を大事にしています。

  ▽ 山本公民館主事の 久保田晋伍さん

 

 山本地区の人口4,850人のうち外国籍住民は178人、3.6%で、飯田市全体の2%よりも多くの割合の外国籍住民の皆さんが暮らしています。毎年2月に公民館が主催している「国際ふれあい交流会」はもともと地区の女性団体連絡協議会が外国籍のお嫁さんたちの悩みを聞く場として始めた事業を公民館が引き継ぎました。小学校の「花の木オープンスクール」は、地域の方たちを講師にした子どもたちの学習活動ですが、この授業の一つとして外国人住民5人が講師となった多文化交流を公民館がつないでいます。

 公民館としては、外国籍住民の皆さんを地域で受け入れる意識や覚悟を持つことができるように、できるだけ大勢の住民がこの事業に関わってくれることを願って取組んでいます。

 私自身は本日登壇していただいた半崎さんの頑張る姿から学んでいます。外国籍住民の人口増という数字ではなく、外国籍住民の一人ひとりの人生を受け止めていく、そういう地域となるように公民館も取り組んでいきたいと考えています。

 

〇 ダイバーシティデ豊かな地域づくりを

 

 外国籍住民が日本や飯田後で幸せに暮らすためには、言葉の問題に限らず、さまざまな課題があります。けれども多文化という多様性がこの地域を豊かにしていくという社会像を描き、そういう社会づくりに向けた課題を克服していく、という視点が大事であると考えています。