上田市で行われた「始めよう まちづくり」に参加しました 2017年11月4日、5日

 11月4日(土)、5日(日)上田英劇と周辺集会施設を会場に、「始めようまちづくり~若者と大人が地域(まち)DE学ぶプロジェクト」が行われ、参加しました。

〇 主催団体と開催の目的

 

 

 主催は日本都市青年会議、共催は地元有志による実行委員会です。

 日本都市青年会議は、1969年、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸、東京、北九州の青年有志によって設立され、全国各地の若者たちが集う全国大会を開催するなど、若者同士の学びを交流を目的とした団体です。上田市では今年で7回連続都市青年会議を開催しており、今回も高校生と大学生15人を含む若者など80人が集う会となりました。

〇 会場は上田映劇

 会場となる上田映劇は大正時代に建てられた建物で、はじめ芝居小屋として寄席や歌舞伎なども演じられていましたが、昭和になってからは映画館として活用されてきました。建物の老朽化などで経営難に陥り、一時休館していましたが、街なかの活性化には文化が大切と映劇の復活を目指す有志によりNPOを設立し、4月より映画の上映、情報誌の発行、さまざまなイベントの開設などに取組んでいます。

 上田映劇だけでなく、古い町屋づくりを活かしたお店など素晴らしい景観を備えた街並みや、空き店舗をリノベーションした学びと交流の場などがたくさんあり、そういう場所から多くの若者や女性たちが育っています。

〇 こらぼ食堂で昼食

 5日の集会終了後、講師で東京大学の牧野篤先生と、イベント企画の中心的な支え手である上田市中央公民館長の竜野秀一さんと3人で、コラボ食堂でお昼を頂戴しました。

 ここはNPO法人食と農のまちづくりネットワークが運営する食堂で、一番の特徴は「ワンディシェフ」というしくみです。この日はこらぼ食堂のコーディネーターも兼ねているla verduraの竹内紀子さんによる野菜中心のランチをいただきました。

〇 始めようまちづくり 初日全体会は牧野篤先生の講義とリレートーク

 11月4日(土)午後に行われた、「始めようまちづくり」初日は全体会。前半は東京大学大学院教育学研究科教授の牧野篤先生が講師となった講演会「楽しさベースの人生100年社会へ~少子高齢人口減少社会における地域コミュニティの役割」と、上田市内で活動されている市民活動グループによるリレートークが行われました。

 牧野先生の講義は、翌日私が参加した「学びを通じた持続可能なまちづくり」でも続きをお聞きしましたので、分科会報告の方で詳しくご紹介することとし、市民活動グループによるリレートークについてご紹介します。

 ▽ 情報による地域活性化 NPO法人UFM 理事長の池松勇樹さん

 

 UFMは上田の魅力を発掘・表現・伝達を目標とした市民団体で、2007年結成、季刊(当初は月刊)のフリーペーパー「うえだNavi」の編集・発行が活動の中心です。発行部数は10,000部で、市内400カ所で配布しています。

 情報誌の編集・発行の活動を通して、上田の人やこと、場所の魅力を発掘し、取り組みのプロセスの中で人と人とをつなげていくことが目的です。

 ▽ 遊びは子どもの主食 NPO法人あそび環境Museumアフタフ・バーバン 北信越事務所長 清水洋幸さん

 

 アフタフ・バーバンとはアラビア語で「開けゴマ」を意味します。アフタフ・バーバンは、東京を拠点に全国各地で子どもたちの遊びの場やそういう活動を支える大人たちの学びの場づくりを進めていますが、清水さんは上田出身であることから、北信越支部長として上田を拠点として活動を進めています。子どもにとって遊ぶことは「主食」という考えの下、4つの柱で取組みを進めています。

 「①禁止のまなざしのあふれている社会の中で遊び心響きあう大人磨きをすすめる」

 「②子ども自身に遊びを通して表現する力や創造する力を育てる」

 「③子どもたちの、違いを認め、関わりあう力、生き合う力が育むことのできる仲間づくりの環境を育てる」

 「④まちや場所の中から遊びを通して新しいものを創り出す。」

 ▽ 上田地域通貨 蚕都くらぶ・まーゆ 世話人の竹内秀夫さん

 

 「まーゆ」は2001年に生まれ、20年近く続く地域通貨です。お互いの助け合いや貸し借りを本当の通貨でなく、それぞれの「通帳」に記帳する方式で続いています。現在の メンバーは200人、入会も退会も自由で、延べにすると400人以上の方たちとつながっています。私自身地域通貨はなかなか長続きしないもの、ととらえていましたが、まーゆでは、定期的な市や懇親会の開催、古民家再生と、その場所を拠点とした交流活動など、参加メンバー同士が協働する企画を合わせることで活動が継続しています。

 ▽ 真田の郷づくり推進会議 会長の宮下俊哉さんと副会長の間藤まりのさん

 

 会長の宮下さんはお寺のご住職、間藤さんは子育て真っ最中のおかあさんです。平成18年に上田市に合併するまでは真田町であった真田の地区に暮らす人たちが元気で生き生きと暮らすことができるように、さまざまな事業を通してつながりづくりを進めています

 ▽ 本を通して人の生活を豊かにする バリューブックス 自社プロジェクトマネージャーの中村聖徳さん

 

 バリューブックスは、上田市を拠点とする、国内最大級の古本の買取と販売の会社です。この仕事とは別に、本を通して人々の生活を豊かにしようと、購入代金を指定した大学や市民活動に寄付ができる「ちゃりぼん」、市場に出すには少し古いけれど十分に読むに堪える本を施設に寄付する「Book Gift」、書店のない地域に車で移動販売をする「Book Bus」、本を通した学習交流スペース「Nabo」の運営などに取組んでいます。

 ▽ 森を学び育てる NPO法人やまぼうし自然学校の平林文嗣さん、小菅彩さん、山田梨加さん

 

 「森林インストラクター養成講座」の受講者が中心となり、菅平高原を拠点に、人と森をつなげる活動に取組んでいます。

 ▽ 若者の自立を支援する NPO法人侍学園スクオーラ今人校長の栗原渉さん

 

 いわゆるニートや引きこもりの若者たちを寮方式で受け入れて、スタッフとともに暮らしながら、基本的な生活習慣の獲得と、学習支援を進めながら、本人の意思による「自立」を迎えた時に「卒業」として送り出す取り組みを進めています。

 ▽ 地域の食文化を発信し人をつなぐ NPO法人食と農のまちづくりネットワークの古田睦美さん

 

 農家や料理好きの主婦や若者などが日替わりで料理を提供するワンディ・シェフ方式の「コラボ食堂」の運営、人材育成のための種まくカフェやワンディパティシエ工房、コミュニティ厨房などを組み合わせた「松尾町フードサロン」の運営、伝統野菜の山口大根など在来野菜の保存伝承や、農家と消費者を結ぶ取り組みなどを進めるCSA(地域で農業を支える)活動」、「地域食材を活用した商品開発」「食農教育活動」などに取組んでいます。

 ▽ 障がいも個性のまちづくり NPO法人リベルテ理事長の武者和貴さん

 

 障がいを持つ方たちのケアと文化的な表現活動を通して、個性や自己決定、自由を、障がいのある人たちとともに尊重していくことができる社会や、人、関係作りを進めています。

 ▽ 元気や若者や女性たちの存在~若者たちにとってのロールモデル

 

 それぞれの活動の主役の多くは、若者や女性の皆さんです。そして共通しているのは多様な人々が違いを認めながらつながりを作り、その中から新しい文化を発信していることです。リレートークを通しはて、上田のまちの底力を感じることができました。

 

〇 牧野篤先生の講義「楽しさベースの人生100年時代へ」

 「始めようまちづくり」初日の全体会と、2日目の第1分科会「学びを通じた持続可能なまちづくり」で東京大学大学院教育学研究科教授の牧野篤先生の講義をお聞きしました。テーマは「楽しさベースの人生100年社会へ~少子高齢人口減少社会における地域コミュニティの役割」です。

 印象に残るお話をご紹介します。

 私自身が県の職員として課題と考える公民館主事など、地域住民の学びや自治を支える専門職の力量形成を考えるうえで大変示唆に富んだお話でした。

  ▽ 国の各省庁が寄せる社会教育・公民館への期待

 

 11月3日に島根県を訪れた。島根県では高校魅力化プロジェクトを通した教育移住の試みを進めている。このモデルとなったのが隠岐の島海士町の島前高校である。今回は他地域から入学した在校生たちの話を聞いた。

 高校生たちは自治体やコミュニティが支援し、社会や地域の関係性の中で育てられている。これは学校内での組織的な教育活動=社会教育そのものである。

 文科省は社会教育課という名称を変えようとしているが、総務省経産省厚労省国交省などはむしろ地域コミュニティの自立的な発展の土台に公民館を中心とした地域における社会教育に着目しており、その意味で公民館の存在が試されている。

 牧野先生のこの指摘は、上からの動員的な役割としての公民館となるか、地域住民の自発的内発的な自治の拠点としての公民館となるか、その境界にあるという意味ととらえた。

 ▽ 社会発展の側面から見る高齢化と人口減少

 

 平均寿命に大きな影響を与える要素の一つは乳児の死亡率。19世紀前半は1,000人当たりの乳児死亡数のピークは350人であったのに対し、最近は20人を切っている。多子社会は持続可能性を担保するために乳児の死亡率も背景としており、少子化社会の背景の一つは子どもが安全に育つことができる社会であることのあかし。

 ▽ 少子・高齢社会における課題としての格差社会

 

 日本は全世帯に対する子どもの相対的な貧困率17%と世界でも突出して高い

 また、急速な高齢社会の進展は、従来の社会保障の枠組みでは対応できず、これまでの護送船団方式の利益配分を保障するシステムが解体し、従来の権利保障システムが危機を迎えている

 ▽ 楽しい、自治体な社会をつくる

 

 これからの時代に必要なことは、小さなコミュニティ単位で、子どもの成長を軸に、学校を核として地域総がかりで社会を創る営みである。

 この時大事なのは一元化・画一性から多元化・多様性という視点であり、このことにより固定した価値から価値の不断の生成・変化が生まれていくという社会像を見据えていきたい。こういう社会に必要なのは、一部のリーダーがけん引するのではなく、社会の構成員皆で作り上げるというスタイルである。

 ▽ 社会教育が新たな社会の基盤をつくる

 

 社会の基盤とは「住民自治を指し、地方公共団体が行う「団体自治」は住民自治があって初めて機能する。そういう住民自治を機能させるために大事な単位は基礎自治体あるいはさらに小さな地域コミュニティであり、そこでの住民自治を機能させるために社会教育は重要な役割を果たす

 ▽ 学びとは、他者とともに社会をつくる営み

 

 学びとは単に知識や文化教養を得ることだけではなく、自らが社会をつくり、経営する営みであり、他者とともに社会を治める営みである。

 社会とは、他者との関係によって構成される小さな社会のことであり、小さな社会を経営することがすなわち自治である。

 社会基盤であるコミュニティを住民自身が経営することにより、結果として行政の財政負担を軽減させることになる。

 これからの小さな社会は、多元的な価値に覆われた社会であり、参加する一人ひとりが創意工夫して力を合わせて作り上げていく楽しい社会である。

 ▽ 新しい社会モデル

 

 次の3つの地域における実践が新しい社会モデルである

 ▽ 柏市における取組

 

 柏市では多世代交流のまちづくりを進めることで、シニア世代が社会を支える大事な構成員として認められ、その姿をロールモデルとして子ども・若者・後継世代が育っている。

 ▽ 豊田市における取組

 豊田市では、定住した若者たちが中心となり、その地域に暮らす人たち全体をグループホームととらえ、仕事を分け合い、負担を分け合い、生活を支え合い、収入を分け合い、日本の最先端地域へと生まれ変わりつつある。

 ▽ 富良野市における取組

 

 富良野市では、小中高が一貫して、ふるさとに愛着を持つ子どもたちを育てる試みを通して、子どもたちの発想や行動がそのまままちづくりの活動となるような取組みが進められ、地域の担い手として育っている。

 ▽ 学びは社会保障

 

 住民が社会をつくるということは、「誰もが自分の人生をイメージできる」「誰もがこの社会の主人公だと思える」「誰もがこの社会に共に生きていると思える」ということ。

 住民が子どもに関わることは人生前半の社会保障であり、高齢者自身にとっては、人生後半の社会保障である。

 ▽ つながりをつくる

 

 つながりとは、いざというときに頼りになる関係であり、相手に頼っても良いという安心感と、つながることのわくわく感がともなうものであり、自立とは、こういうつながりがあって初めて実現するものである。

 これは「緊密なつながり」というよりも「緩いつながり」「関心を持ちあう」「社会に対する信頼感」があることが社会にとっても重要である。

 ▽ 市場もつながりである

 

 飯田OIDE長姫高校商業科の生徒の教育課程を、松本大学飯田市公民館が支える地域人教育。リヤカーで買い物困難者の多い地域で引き売りをする高校生たちの気づき。「お年寄りたちは本当に必要なものだけでなく、余分なものまで買ってくれる。これは私たち高校生たちにまた来てほしいというメッセージ。つながりをもとめている。」

 モノが買える、モノが売れるというニーズは、個人には存在しない。関係の中で発生する。

 ものづくりは、人が自分を社会の中につくりだし、社会をつくる営みである。

 商業は、モノを流通させることで社会をつくり続ける運動である。

 ▽ 若者が帰ってくる訳

 

 田園回帰といわれる、若者たちが都市の暮らしから田舎の暮らしを選択する動きが生まれている。

 若者たちの新たな動きの動機として「利便性より自然環境」「地域参加意識」「競争より充実」「自然相手の仕事」「仕事が生活そのもの」などがあり、これはすなわち「受け入れられること」「文化的なもの」「地域社会重視」を選択した結果である。

 ▽ 学びの本質

 

 「創造性(クリエィティビィティ)は個人の中にあるのではなく、関係性の中にある。他者と協調的でないと、創造的にはなれない(チクセント・ミハイ)」

 最近高校などで授業の方法として「ディベート」が採用されるがこれは「つぶしあい」。大事なのは自分と世界を人とともに創り出していくことであり、そのために必要な視点は「分離しない」「重ねる」「関係をつける」「つなげる」「物語をつくる」ことであり、ディベートとは真逆の考え方である。

 自分がつくった新しい自分と世界を、後から発見している(ふりかえり)、そのことでわくわくすると、もっとつくりたくなる。それは人との共同作業。こういう「わくわく感」はひととのあいだでしかあじわえない。自分は人とともにある存在。

 学びの本質は、自分と世界を、人とともにつくりだし、拡張し、豊かにすること。そのプロセスで自分に驚き、わくわくすることである。

 それは常に未知をつくりだすこと。新たな関係へのきっかけ。対立を新たな関係にとらえなおすこと。社会をつくりつづけること。自分を新しくし、他者を新しくし、社会をつなげていくこと。

 自分と他者を新たな存在へ駆動することである。

 ▽ 学びを支える新たな専門職

 

 こういう人々の学びを支える専門職として文科省は、これまでその職に就いた時に発令される任用資格であった「社会教育主事」を、国家資格としての「社会教育士」とし、その養成の内容も大幅に見直そうとしている。

 新たな専門職に求められる資質は、地域住民とともに生活し、彼らの言葉にならない感情や思い、日常生活上の課題、希望を言語化し、可視化して、住民に還し、「学び」を組織化できる人材である。