しもすわあきないプロジェクトの取り組みを視察しました 2017年11月20日

 11月20日(月)中山間地域の住民力・地域力による社会的事業支援研究会による㈱empublic広石拓司氏による講義「移転可能な形での地域事業のケース分析の手法」の受講と、下諏訪町御田町「しもすわあきないPJ」視察に参加しました。

 【㈱empublc広石拓司氏による講座「移転可能な形での地域事業のケース分析分析の手法」】

  移転可能な形での地域事業のケース分析を学ぶそして今月から具体的に、県内外の地域を訪問し、事例研究を始めることとなりました。今回は、ケース分析を進めるうえでの視点や手法を学ぶことを目的とした研究会です。

 県では部局横断的に「中山間活性化検討チーム」を組織し、その支援の方策の検討を進めています。

 「その人のすごさ」か「移転可能な知恵」か1千万円を超えて稼ぎ出すおばあちゃんの存在を「すごいね」で済ませたり、「自分たちも葉っぱを売ってみよう」と結果だけ見たり、仕組みづくりを行った横石知二さんの属人性に着目することではだめです。しかし行動のプロセスの中で、今がチャンスだと判断するポイントがあったはずです。

 移転可能な分析とは、同じことを再現することではなく、その先行事例は試行錯誤を繰り返しながら「背景・状況」→「判断」→「行動」→「結果」にいたる「つながり=ストーリー」を学ぶことから始めます。いろどりの取組みも成功したことには運という要素が多分にあります。そして横石さん自身も最初から成功するか失敗するのかわからないままに動いていたはずです。決して最初から成功者であったわけではありません。

 広石さんは「葉っぱビジネス」で知られる徳島県上勝町を引用しながら話を進めてくれました。

 すべての成功は何らかの投資的行動から生まれる ただし投資的な行動を行う際に大事なことは次の4つのポイントです。

 

 一般的に自治体財政の支出は、リスクを極力つぶした融資的な視点で行われます。しかし成功事例というものは、リスクを前提に投資的な行動の結果生まれます。

  1. 行動する人が、中長期的なトレンドとして、行きつく先のゴールすなわちビジョンを持っていること
  2. 自分たちが持っている資本(財務・製造・知的・人的・社会関係、自然の6つの資本)を自覚していること
  3. 試行錯誤を繰り返しながらも、現状から未来に向けて、何か進んでいるということを見取れているか判断できていること
  4. いいことなのに実現できていないのはなぜか、常に問いを持ちながら取り組んでいること

  いろどりの横石さんの行動を分析してみる

 

 このことをいろどりの取組みを支えた横石知二さんの行動と重ねてみると、次のようなプロセスが見えてきます。

  1. まず横石さんは、地域の中では力があるけれど潜在化していた女性たちの力に期待します。
  2. 次に料亭の「つまもの」という既存の作物でないものに着目します。
  3. そして、自分たちが取ってきた「つまもの」が料亭の料理に使われているという入口から出口までのストーリーが見えていることから、周りの皆の反対にも負けずやり続けます。
  4. 取組みは横石さんと仲の良かった4人のなかのいいおばちゃんたちという社会関係資本を活かして取り組み始めました。
  5. 最初は全く売れなかったにもかかわらず、広石さんには、料亭で自分たちの「つまもの」が使われているという成功イメージがあり、そのイメージを持ち続けていることから、取組みをあきらめず、なぜ売れないのかという問いを持ち続け、その結果、自分たちがマーケットを知らなかったという原因に行きつきます。
  6. そこで横石さんはマーケットとしての料亭に聞きに行きますが追い返されます。けれどもあきらめずに行動するうちに、お客には話してくれるということを知り、毎月のようにいろいろな料亭に自腹で客として出かけ、仲居さんに「つまもの」について話を聞きます。
  7. そこでわかったのは、「つまもの」は、一つひとつのつまものが見栄えが良くてもだめで、その色、形、大きさなどが均一で、一定のロットが確保できないと料亭側は買わないというマーケットの事情です。 
  8. 以上のような「行動」と「結果」に至る「プロセス」の中で何度も訪れた「別れめ」で「あきらめず」に「判断した」積み重ねの結果で成功に至ったということを学び取るのが分析の手法です。

 現場の取組みの伴走者としての県の役割 投資的行動にはリスクが伴いますが、そういうリスクにどう対処していけばよいのかという「リスクマネジメント」です。つまりともに伴走しながら、現場の人たちとリスクを共有し、ともに気づいていくという姿勢が求められます。

 

  中山間地など現場の取組みの活性化に、支え手として、これから県が関わっていくべき姿勢は「伴走者」です。これまでのように補助メニューを用意するだけではだめです。

 具体的な分析の側面 

 

 具体的な現場でのヒアリングを進める際にポイントとなる側面は、「対象者」「市場」「事業、製品、サービスの質」「生産性」「理由・動機」「ガバナンス」の6つです。

 対象者 

 

 特に大事なのは現場キーマンの持つ力量のうち「ケイパビリティ」です。ケイパビリティとは、単なる知識や技術だけでなく、「能力」「環境へのアクセス」「意欲/あきらめ」などの側面を含む言葉で、活躍できる状況につなげられる力を指します。

 市場 

 

 大分県の湯布院は、別府に対抗するために、団体客を中心マーケットとしていた別府に対して個人をターゲットとし、成功しました。どのような市場を選択したのか、という視点も大事です。

 事業、製品、サービスの質

 それから「価格」はコミュニケーションです。単にその商品が高いか安いかではなくその価格でなぜ売買するのか、という結果に至る、生産者と消費者のコミュニケーションが大事です。

 

 いろどりの場合は、料亭の人たちにとって魅力ある「つまもの」とは何かを探って商品化した取組みです。つまり顧客や担い手など誰にとって、どのような質を大切にしたいのかという質をどのように定義したという点が大事なポイントです。

 生産性 

 

 価値を再現するノウハウ、仕組み、どのように資源を確保するのか、どのように担い手を確保するのか、担い手をどのように育成するのか、育成した人々が前の製品の質を再現できるためのポイント、供給や工法のポイントなども大事です。

 理由・動機 

 

 試行錯誤しながらもやめない理由、続けようとする動機、周りの人たちから見てその人が行う理由の納得性、その取り組みに共感を呼ぶ理由、そして誰が共感しているのかなども大事です。

 ガバナンス 

 

 ネット通販大手のアマゾンは、仕組みを立ち上げてから15年間、取引高は拡大していきますが、赤字が続いていました。それでも継続したのは収益よりも取り扱い高を増やしていくことを目的としていました。経営者はそういう視点で組織や活動のガバナンスを進めていました。そういう取組みを進める人たちのガバナンスも、聞き取りの大事なポイントです。

 6つの資本の視点でみる

 それは「①財務資本」「②製造資本」「③人的資本」「④知的資本」「⑤社会関係資本」「⑥自然資本」を指します。人的資本とは組織で働く人たちのこと、知的資本とは組織が取り組みを進める上で持っている知恵、社会関係資本とは組織が存立する周りの地域や人との良好な関係、自然資本とは一方的に自然からの恩恵を受けるだけでなく恵みを返していくことができる循環の視点です。

 

 9月9日から11日にかけての石巻視察でも、同行していただいた広石さんから、6つの資本という見方を教えていただきました。

 統合的にまとめるまた船木さんが専門とされているブランディングも、個々の要素の集合体です。

 

 【視察:下諏訪町御田町「しもすわあきないプロジェクト」】

 

  長野県、あるいは一つの中山間地域で暮らしてみたくなるためには、そういう人たちと地域をつなげる県の仕事が統合的に見えるようにしていくこともブランディングとしての必要な条件です。

 研修会の最後に船木参与から「リーンスタートアップ」が大事、という話をしていただきました。これは小さな取り組みを、失敗を繰り返しながらも積み上げて、その積み重ねの中で大きな成功につなげていく、という考え方です。

 匠の里しもすわあきないプロジェクトから学ぶ

 

 ㈱empublicの広石拓司さんのお話をお聞きしたその足で、下諏訪町・御田町商店街を訪問し、NPO法人匠の町しもすわあきないプロジェクトで専務理事を務める原雅廣さんのお話を伺いました。

 原さんの本業は大和電機工業株式会社の取締役部長ですが、本業の傍ら御田町商店街のまちづくりを支えています。

 原さんのお話は一言一言が実践に裏付けられながら、しっかりとした意味づけをされており、お土産になる言葉が満載でした。

  御田町商店街の歴史と現在

 

 御田町商店街は諏訪大社の参道に位置し、明治時代からのお店もあるそうです。しかし原さんたちが活動を始めた2003年には、1/3の店が空き店舗でした。

 原さんがこの活動に入ったきっかけは、2002年、新しい町長の発案で生まれた「しもすわはってん100人委員会」に参加したことに始まります。そのメンバーの中から「商店街活性化グループ」が生まれ、話し合いの中でこのグループが核となり、2003年「匠の町しもすわあきないプロジェクト」に改名、2005年、活動の拡大に合わせてNPO法人となりました。

 その後現在までに、若手のモノ作り職人が中心に述べ35件が開業し、モノ作り職人の町として全国に知られるようになりました。

  「モノを売る場所」から「コトづくりの場所」へ

 

 これまで商店街は、「モノを売る場所」ととらえられていましたが、その固定観念から脱却し、商店街でモノをつくり、ここだけしか手に入らない匠の町づくりをすすめることで、「コトづくりの場所」へと変わっていきました。

 この取組には工業者である原さんのような異分野の視点が商業と結びついたダイバーシティ(多様性)による変化・変革があります。
 大事にしている3つの視点「リソース」「アクション」「シェア」

 

 取組みを進めるときに大事にしているのは3つの視点を大切にしているそうです。

 「リソース」:あるものを使い無理をしないこと。

 「アクション」:できることからはじめ、できる人がやる。

 「シェア」:情報と人脈を共有し、長を作らない

 最初に一軒の空き店舗を、町の人たちやNPOのメンバー手作りで、お金をかけず手間をかけリフォームすることから始めたそうです。そしてその小さな成功例を積み重ねて、多くの創業事例を創出していったそうです。

 それこそ船木参与が例とした「リーンスタートアップ」そのものです。

 町を支える4つの力「Stock」「Value」「Rest」「Design」

 

 そして町を支えるのは次の4つの力です。

  「Stock」の中心は、「おかみさん会」

 

 「Stock」の中心は、「おかみさん会」の存在です。現在会員13人のこの会は、昭和のよい時代のおせっかい文化を持つ方たちです。

 原さんは「おかみさんフィルター」と呼んでいますが、新しく商店街で起業を希望する人たちとの面談は、おかみさんたちが行います。大事にしているのはあいさつなど隣近所との人間関係をちゃんと結べるかどうか。当日もお二人のメンバーが参加してくれましたが、商店街で起業する若者たちを、自分たちの子どものように見ているそうです。仕事の内容には口を出さず、日常の暮らしの中で心配なことの面倒を見ているそうで、何組かメンバー同士の結婚の縁結びにまでつなげたそうです。

  Value」の中心は職人たちのつくる力

 

 「Value」の中心は職人たちのつくる力です。若い職人たちは協働で、自分たちの作品を共通の「御田町スタイル」というブランドにし、東京で物販し、大成功をおさめます。彼らはモノを売るだけでなく御田町という町を売ります。御田町という冠で事業をすることの価値を作ることを原さんは、「エリア・アイデンティティ」と呼んでいます。

  Restの中心は「プラットフォーム」

 

 Restの中心は「プラットフォーム」という考え方です。それは場所というよりも機能です。プラットフォームとは「情報と人材を共有」し、「餅は餅屋」で得意とする人に得意なことを預け、「個々の問題を相互補完」の視点を持って違いの悩みの解決や得意分野の共有などを進める機能を指します。

 そこには全体を統括するリーダーに下で活動するというのではなく、プラットホームが皆をつなぎながら、一人ひとりが自身が主役となって活躍していく、「自律分散型」の姿が大事です。

 原さんは自律分散型をロボットにたとえて説明してくれました。ロボットを動かす時、全体を一つの頭脳で制御すると不具合が発生することが多く、むしろ手や足などそれぞれのパーツを制御する頭脳を作り、それらを統合的に機能させたほうがロボットはうまく動くそうです。さすがにモノ作りを本業とする原さんらしいお話でした。

  Designの中心は客観的に立場で全体像をまとめるデザイナー

 

 諏訪地方は、ものづくりの地域だけあって、モノのデザインに関わる人たちが多い土地柄だそうです。しかもデザインを専業とする方だけでなく、半農半デザインなどデザインも仕事の一つとされている人たちが多いそうです。そういう人たちとつながることで、中で暮らす人たちには見えない目線を持ったコトのデザインをしてもらっているというお話です。

 町の成長を測るものさしは「幸福度ナンバーワンの町」

 

 そして町の成長を測るものさしは、「皆があこがれる」「住んでみたい」「また行ってみたい」「これから行ってみたい」と思ってもらえるような幸福度を感じることができるまちづくりに置いているそうです。

 サーバント・リーダーシップ

 

 現在上田市の公民館職員の皆さんとの間で読書会を始めていますが、私が課題図書に選んだのは「サーバント・リーダーシップ(ロバート・K・グリーンリーフ)」です。サーバント=奉仕する人・仕える人とリーダーシップは一見ま逆の言葉ですが、皆がチームとして一体的に動くことができる組織のリーダーは、実はチームの一人一人に対するサーバントとしてのまなざしを持つ人、というリーダーシップ論です。とはいえプロジェクト全体をしっかり俯瞰し、こういう地域にしていきたいという未来やゴールというビジョンを持っているなど、そのリーダーシップにはたくさんの要素が加味されます。

 今回お話をお聞きした原さんにサーバント・リーダーシップを見たようにとらえています。実はこのサーバント・リーダーシップは、公民館主事にも求められる力ととらえています。