振り返りが大事 上田市で生涯学習センター主催の研修会の講師を務めました 2017年12月8日

1 上田市中央公民館で地域づくり推進研修会が行われました
 12月8日(金)上田市中央公民館で、地域づくり推進研修会が行われました。参加者は80人、県内公民館関係者と上田地域を中心とした市民活動家、社会福祉協議会職員の皆さんなど公民館以外の参加者がほぼ同数です。
 午前中は私がファシリテーターとなり蚕都くらぶ・ま~ゆの安井啓子さんと、上田市上野が丘公民館の山口美栄子さんの実践発表を受けた振り返り会、午後は(株)studio-L代表で東北芸術工科大学教授の山崎亮さんによる講演会です。

 

2 事業以上に大事な振り返り
 特に公民館のような社会教育機関の場合は、事業に関わる人たちが事業を通して何を学びどう育っていったかという視点が大事です。
 かつて私が長野県生涯学習審議会委員を務めていた時代、公民館現場で、モデルとなる事例の視察をさせていただいたことがあります。事例は公民館と地元酒造会社が共同で開催したワイン講座。公民館と酒造会社が共同し、ワイン愛好者の広がりを通して、ブドウ生産農家の振興をねらった講座です。
 実はこの視察で私は公民館職員にこの講座の次への展開について質問したところ、「考えていない」という返事が返ってきました。一方酒造会社の担当者からは、「講座に参加した方たちが次にご自身で仲間や知り合いにワインの魅力を広げてくれるようなワイン愛好家の広がりを期待しています」と応えてくれました。
 私はこの視察から二つの課題を感じました。
 一つ目は、公民館職員の方が、事業を実施することが目的化してしまい、事業の振り返りができていないこと。そのためにせっかくの成果を次につなげる視点が育っていないという点です。
 二つ目は、共同相手である酒造会社の担当者の方と事業のねらいが共有されていないということです。
 私は3月まで勤めていた飯田市の公民館で、公民館長や公民館主事の会議では一番振り返りを大事にしていました。そして特に公民館主事にとっては自分自身の仕事を振り返ることを通して、地域や事業に対するまなざしが生まれ、育っていく姿を見ていました。
 今年4月から県の企画幹となり県内各地の実践や研修の現場で感じることは、事業が目的化していたり、事業のねらいが定められていない、あるいは事業を作り上げるチームの中で共有されていない、そしてそれらのおおもととして事業の振り返りができていないということです。
 今回の研修の午前中は、二つの事例をお聞きした上で、登壇した三人で公開振り返りを行うことを狙いとしました。

 

3 蚕都くらぶ・ま~ゆから、公民館以外の実践を学ぶ
 蚕都くらぶ・ま~ゆは2001年に生まれた地域通貨です。この事例をご紹介したかった理由の一つは、特に公民館から参加された皆さんに対しては、公民館事業の枠の中だけで学びや社会教育をとらえるのではなく、もっとウィングを広げることで、事業を進めるうえで持ちたい共通の大事な視点を見つけたり、公民館以外の学びや活動、人々と自分たちの公民館事業をつなげる視点を持っていただきたかったためです。
 蚕都くらぶ・ま~ゆは、「競争と経済効率を最優先する社会ではなく、いのちのつながりを大事にし、楽しく心地よく暮らせる地域と互いに助け合うぬくもりのある人のつながりをつくる」ことを目的とし、活動の基本は、互いの困りごとを助け合う手間の交換を行っています。加えて上田市中央公民館を拠点に毎月開催されるモノやコトを交換する「ま~ゆ市」、メンバー有志でリフォームした空き家を拠点とした廿日市、味噌づくり、米づくりなど会員の自由な提案にこの指とまれ方式でメンバーが参加するプロジェクトなど、多彩な交流の取組も広がっています
 現在の会員は10代から80代までの200人。ま~ゆが誕生した頃、全国各地で地域通貨がありましたが、多くは途中消滅。これだけ長く続いている取組は希少です。秘訣は手間の交換にとどまらず、参加者同士の自発的で多彩な交流を組み合わせていることです。
 東日本大震災福島原発の事故などで、大都市での暮らしに不安を感じ、IUターンされてきた方たちの居場所にもなっているそうです。

4 大切にしていることは「自主性・主体性」「誰もが主人公」「柔軟性」…
 運営にあたり、次のようなことを大事にしているそうです。
 ・個人の自由、自主性、主体性の尊重。
 ・一人ひとりが主人公になれる場(活躍の場)を多様に作る。
 ・形にとらわれない、お金をかけない柔軟性を持った組織運営。
 ・価値の基準を個人の判断で決定できる。(ま~ゆ交換の場)
 ・新しい価値・文化の創造(「大きいことはいいことだ」的発想からの脱却。これまでの常識を疑ってみる。)
 ・結果を急がない。あせらない。自然のリズムを尊重し、じっくり、ゆっくり育つ土壌をつくる。
 ・他団体との連携、ネットワーク。
 上田市では食と農のネットワークによる「コラボ食堂」の運営、自然エネルギー事業の展開など多彩な市民活動が盛んですが、それぞれの活動とま~ゆのメンバーが重なっており、ま~ゆの活動を通して育った人たちが、さまざまな地域や市民の活動の担い手として活躍する、プラットホームにもなっているそうです。

 

5 地縁団体とサークルを結ぶ ガチャガチャバンド
 上野が丘公民館の山口さんからは、ガチャガチャバンドの活動について報告していただきました。
 山口さんは公民館の仕事を進めるうえで、同じ公民館を利用する団体でも、自治会などの地縁団体と、サークル活動のメンバー同士のつながりがないことを課題と感じていました。また、自治会は男性、サークルが女性と、参加の顔ぶれにも偏りがあります。ガチャガチャバンドは自治会長や民生委員、主婦や自治体職員など多彩で9人のメンバーは男性4人、女性5人で、公民館職員である山口さんもメンバーの一員です。
 昨年発足し、今年7月23日には「真夏の昼の音楽会」という初めてのコンサートを主宰したほか、最近では毎月のように各地の敬老会で招待されているそうです。
 バンドのモットーは「練習しすぎない」「練習しすぎると本番で失敗する」「練習は短時間」「ほめあう」「慰問に行っても決して謝礼はもらわない。ただしお弁当は大歓迎。」「終わったらさっさと帰る。」
 メンバー同士フラットなお付き合いをするために、活動ではニックネームで呼びあっています。「ペペ中山」「ハリー ホッター(ギター)」「アレキサンドラあきこ(ウクレレ、VO)」「こば マロニー(MC、VO)」「ハーレー青木(ギター、VO)」「ラッパおじさん(トランペット、ギタサー、VO)」「セクシーサンタひこ(電子ドラム)」「ヘンリー王子(ボンゴ)」「山口クリスティーナ(ハーモニカ)」。
 楽しんで活動されている様子が目に浮かびます。

6 みんなガチャガチャを抱えて
 山口さんは活動の中である出来事を紹介してくれました。
一つは「トイレ事件」。たまたま演奏会に出向いた現場で、山口さんは女性トイレの中で人が倒れているのを見つけました。すぐにメンバーに声をかけましたが場所が女性トイレであることから力のある男性メンバーがかつけてくれたもののパンツを脱いだ女性の救助であることから躊躇していたところ、女性メンバーの一人が介護施設の職員であったことから、日ごろの経験を活かして速やかに対処してくれました。その時に山口さんは、多彩な職業経験のある方たちが集うサークルの強さを実感されたそうです。
もう一つは「お弁当とおしゃべり事件」。ある演奏会が終わった後、用意していただいたお弁当を食べながら、メンバーの一人から、身内の死について話していただいたそうです。その方は長い間行方が分からなかった方だそうで、こういうメンバー一人ひとりの人生の出来事を語り合える仲間同士であることをとても心強く感じたそうです。
シニア世代のメンバーですから、「大事な人の死」「孫の誕生」「大事な人の病気」「自分の老い」「家族の介護」「子どものこと」「お金のこと」「将来の不安」などそれぞれのメンバーがいろいろなガチャガチャを抱えながらバンド活動をつながりに仲間となっている様子が山口さんの発表からうかがえました。

7 観客のいない芝居
 昭和23年3月、飯田市竜丘公民館(当時は竜丘村公民館)が発足式の際に配られた「公民館報たつおか創刊号」で、当日公民館教養部主事を務められていた橋本玄進さん(本業はお寺のご住職)が「公民館活動は関わる人すべてで裏方から役者までを務める芝居のようなもの、そして舞台から客席を見渡したところそこには人のも観客がいなかった。公民館は観客のいない芝居である。」と書かれていた。
 お二人の発言に共通すること、そして公民館の活動の根っことして大事な言葉であるとお話しさせていただきました。

8 参加者からの「金言」より
 公開振り返り会の締めとして、参加された一人ひとりに紙をお渡しし、公開振り返り会を通して一番印象に残った言葉を「金言」として書いていただき共有しました。それは次のような言葉です。
 「自主性」「ここちよい」「みなさんの出番ですよ」「定期的な集まり」「つぶやき」「ゆるさ」「交流&勇気」「振り返り」「無理しない」「楽しむ」「自分でやる」「想いは口に」「来るもの拒まず」「行ってみる」「言ってみる」
 「金言」には一方で共通性があり、これは二人の活動に共通して大事な要素があったという裏付けですし、もう一方で多様性もあり、これは参加された一人ひとりが少しずつ異なる見方をしていることが分かり、「共通すること」と「多様性」をともにくみ取ることができることが、振り返りすることの意味ではないかととらえています。
 最後に安井さんからは「仕掛け人が必要で仕掛け人となることが大事であると感じた」
 山口さんからは「第三の顔で新しいことをやってみることが大事」
 私からは次のようなお話をし、会を締めさせていただきました。
 「サーバント・リーダーシップというリーダーシップ論があります。これはチーム全体のサーバント(支える人)になり続ける姿勢を持つ人が、皆に支持されリーダーであるという考え方で、これは櫃のチームにリーダーが一人いる状態ではなく、むしろチーム員それぞれがリーダーシップを持つ状態です。二人の事例や意見交換の中で、そういうリーダーが存在するような取組か大事であるということを改めて感じることができました。」