上田市公民館職員の皆さんと2回目の読書会を行いました 2017年12月26日

〇 上田市公民館職員の皆さんと2回目の読書会を行いました

 昨年末年12月26日(火)18:00~21:30、「松尾町フードサロン」(上田市)で上田市の公民館職員の第2回読書会に船木参与、文化財生涯学習課の私と田中主事の3人で参加しました。

 今回は船木さんから紹介された図書の中から3冊に絞り、それぞれの二人ずつチームとなり、1冊の本を読みあって報告する形でした。

 当時の様子は、読書会メンバーの一人、文化財生涯学習課の田中さんが次のようにまとめてくれました。

 

〇 レポート発表・意見交換 (発表順)

 1 「田園回帰1%戦略地元に人と仕事を取り戻す」 藤山 浩(農文協)【中村さん・関さん】

 この本では、地域人口1%取戻り理論について、島根県内の事例が紹介されている。毎年地域人口の1%を取り戻していけば地域人口の安定化がみえるというものだ。とても分かりやすい説明で、データとともに示されている。小さな数字であっても積み重ねることが、地方創生への小さな一歩になるといえる。「行政は人口問題、本人は人生問題。数字の処理だけだとシナリオが描けてしまう。数字ばかりみてはだめ。」と船木参与による助言があった。

 

 2 「あなたの中のリーダーへ」 西水美恵子(英治出版)【大塚さん・田中】

 世銀の改革が必要と述べる西水さんの経験から、それぞれの心に眠ったリーダーを呼び起こす訴えをする本。貧困問題、女性雇用など、世界情勢や経済状況まで把握する知識欲旺盛な著者の人間性に触れることができた。

 

 3 「サーバントリーダーシップ」ロバート・K・グリーンリーフ(英治出版)【山口さん、木下企画幹】

 「トラスティ(受諾者)」という語で談論がなされた。「導くが経営しない」「マネジメントをする存在」など、一言では説明できない語について、読み解かれていった。山口さんは自身の経験から、竜野館長が自分にとってのトラスティであったと説明していた。リーダー像の真髄が「あなたの中のリーダーへ」とつながってくる部分が多くあると見受けられた。

 

〇 読書会のねらいは「生き方、考え方、仲間づくり」

 以上田中さんにまとめていただいたように、これらの本を読み解きながらの読書会は、参加者にとっても大変深みのある学習会となりました。

 読書会の意図は、本に書かれた内容を読み解いていくこととともに、次のようなねらいも持っています。

 一つ目は、読書会を通して自分自身の仕事に向き合う姿勢や生き方と重ね、振り返ること。

 二つ目は、読み手によって、本の中から引き出す大事なポイントやとらえ方の違いを交流することで、自分以外の参加者の見方・考え方を学び取ること。

 三つ目は、読書会での対話を通して、仲間となっていくこと。

 私自身、一人ではなかなか読もうという気になれないだろうからと、500頁の大作「サーバント・リーダーシップ」に挑戦しましたが、かなり苦労しました。それでもチームの相手方である上田市上野が丘公民館の山口さんや、船木さんと、読書会に臨むために、何度も話をする機会がありました。

 講師を招いた講座は、どうしても受け身となってしまいますが、読書会の場合は、読書という自分自身の主体的な行為が伴います。

 読書を通じて仲間を作りながら、自分自身を振り返り、新しい問いや気づきを広げていきたいと思います。

飯田OIDE長姫高校商業科生徒による成果発表会に参加しました 2017年12月22日

 12月22日(金)飯田市鼎文化センターで、飯田OIDE長姫高校商業科の成果発表会が行われ、参加しました。


〇 飯田OIDE長姫高校域人教育成果発表会
 飯田OIDE長姫高校と松本市飯田市が「地域人教育推進に関わるパートナーシップ協定」を結び、商業科1年生から3年生までの280時間の教育課程を組み立てています。
公民館は主に3年生の課題研究を担当し、8人の公民館主事がプロジェクトを組んで、担当教諭とともに生徒たちと地域を結んでいます。
 成果発表会は3年生の課題研究の成果発表を中心に、1年生や2年生の活動成果と、生徒たちによるまちづくり団体Sturdy Eggの活動報告で構成されました。
 発表会当日は、240人の生徒に加えて、牧野飯田市長、佐藤飯田市副市長、代田教育長のほか、生徒たちの地域活動を支えてきた公民館主事や地域の方々、そして竜丘地区からは竜丘小学校6年生の皆さん、県立高校として初めてコミュニティスクールに指定された白馬高校からは国際観光科1年生も参加。600人収容のホールがいっぱいになるほどの賑わいでした。

 ▽ 3年生全員が発表者に
 発表事例は12のうち3年生の課題研究は9つでこのうち7つは公民館主事が地域とつないだ事例、ほか2つは下伊那農業高校と連携した6次産業をテーマとした事例と、飯田下伊那の多彩な事業者の方たちとつないだ商品開発の事例です。それぞれの事例の概要を紹介します。

 (1) 「次世代につなげるために」(協力 橋北公民館、橋北まちづくり委員会、橋北面白倶楽部)
 橋北地区のことを学び、公民館主催のウォーキングイベントで、クイズラリーを考案。地区内4店の和菓子店のお菓子を賞品とし、お店への誘客を計画。

 (2) 「地域課題を地域資源に」(協力 竜丘公民館、天竜川鵞流渓復活プロジェクト)
 地域の景勝地鵞流渓復活のプロジェクトへの参加を核としながら、地区運動会への参加、竜丘小学校6年生との交流などを実施。

 (3) 「八幡商店街の活性化」(協力 松尾公民館、サンロード八幡商店街、ゆめのや)
 松尾地区サンロード八幡商店街の「サンロード八幡祭 音楽の集い」への参加と、空き店舗を活用したサロン「平日のよきお茶イベ」の開催。

 (4) 「Do you know かみむら?」(協力 上村公民館、御前の会、南信濃給食センター
 上村地区の食と伝統を多くの方たちに知ってもらい、地域の子供たちに守ってもらうことをねらいとし、伝統食である「三角寿司」をモチーフとした給食を企画し、上村小、和田小、遠山中学校の献立として提供。

 (5) 「中心市街地に賑わいを取り戻せ!」(協力 橋南公民館、HOTA PASTRY、銀座商店街、橋南連合青壮年会)
 中心市街地の洋菓子店HOTA PASTRYの鈴木正太さんの指導で地元特産のスイーツを使った 商品を開発し、品川で販売。かき氷ゼリーを開発し、地元愛宕神社のお祭りで販売、みこしも担がせていただく。

 (6) 「地元食材を使った商品開発」(協力 キッチンかのん、知久養豚場、いずみの家、ホタジェやすおか)
 地元食材を使った商品「こんにゃくを使ったわらび餅」「かぼちゃを使ったパン」「肉巻きおにぎり」を開発し、11月3日丘のまちフェスティバルで販売。

 (7) 「地域の方々を笑顔に~地域の良さを伝える」(協力 鼎公民館、上茶屋地域の方たち)
 地区の伝統工芸職人から教わった組子細工、地元産の餅やさつまいもを使ったあんころ餅や甘酒、鼎地区の様々な行事を集めた地区紹介の動画を、鼎地区文化祭で披露。

 (8) 「商農Girls、販売する~6次産業体験」(協力 下伊那農業高校)
 下伊那農業高校と連携し、自分たちでトマト、ジャガイモ、サツマイモなどを栽培し、実際にサツマイモを使ったパン、スイートポテト、クッキーに加工して付加価値をつけ、昼神温泉の朝市で販売。

 (9) 「世代間のつながりを増やし、住みよい地域づくりのお手伝いをする」(協力 東野公民館)
 地域課題を調べるためのアンケート活動、地域のシンボルである大宮神社の清掃活動、公民館事業への参加、お年寄りと子供の交流をねらった自主企画「たこ焼きアレンジパーティー」の開催。

 (10) 「Sturdy egg:Experience~水引でつなぐ 結いのまち飯田」(協力 関島水引店、飯田観光協会、週休いつか、ディ不動産)
 水引の需要の拡大と、認知度を高めることをねらいとした活動を展開。自校の卒業生への記念コサージュ260個を製作。鼎公民館「夏休みこども水引研究所」の主催など水引細工の体験企画を開催し、延べ1000人が参加。取り組み事例を全国高等学校商業研究発表大会で報告し、優秀賞(2位)を受賞。

 (11) 「2年生 商業実務での取り組み」(協力 リンゴ並木まちづくりネットワーク)
 地域実習としてりんご並木まちづくりネットワークが運営する毎月の歩行者天国に参加。インターンシップ。探求のための基礎教養講座「地域社会学」「地理デザイン学」「グローバル表現学」などを学ぶ。

 (12) 「1年生 ビジネス基礎での取り組み」(協力 NPO法人イデア
 地域で活躍する方たちを講師とした講座の受講。松本市上土町と、飯田市中心市街地でフィールドワークを行い、まちの課題を考える。

 

 ▽ 高校生自身がロールモデル
 それぞれの活動に協力していただいた団体数だけでも29ですから、実際に関わっていただいた方たちは数百人に上ります。生徒の皆さんは例えば商品開発の取組で、安全管理や売れる商品とするまでの難しさについて厳しい指摘を受けることもあったようです。生徒たちをやさしく受け止めてくれるだけでなく、関わってくれた大人の皆さんの姿勢は、生徒たちを育てようという本気の表れであったととらえています。高校生にとってこれらの大人たちとの関わりは、なりたい大人のロールモデルとの出会いでもあります。
 またここ数年のうちに、商業科の生徒4人が飯田市の試験に合格し、職員となりました。公民館主事たちが生徒たちのロールモデルにもなっているようです。
 今年の発表会で特徴的なのは取組で交流した竜丘小学校の6年生がクラス全員で発表会に参加したことです。休憩時間には高校生と小学生たちがロビーで笑顔で交流する姿も見られました。公民館主事の熊谷君に話を聞いたところ、6年生の保護者から、将来飯田OIDE長姫高校で地域人教育を学びたいという子もいたそうで、生き生きした高校生の姿が、小学生たちのロールモデルとなったようです。
 また発表の中に予定通りに進まなかった失敗について、正直に報告してくれるグループがいくつもありました。大きな成功は小さな失敗を克服しながら積み上げていく「リーンスタートアップ」という考え方がありますが、これも得難い経験です。
 プレゼンテーションの資料作りから、発表の内容、一人ひとりのせりふ回しまで、生徒自身が考えて作り上げたそうですが、3年生は82人全員が壇上で発表に関わっていましたが、どの生徒も堂々とした態度でした。大勢の人前で発表すること、そしてそのための準備に向けて活動を振り返ることも、生徒の育ちの大事な要素です。

 ▽ 教師と公民館主事の連携し、地域が支える地域人教育
 3年生の課題研究は毎週金曜日の4時間目から6時間目の3時間ですが、「主事会地域人教育PJ」8人のメンバーは、毎週この授業に参加し、グループごとの担当教師とチームを組んで生徒たちの学びを支えています。
 主事たちの役割は、地域の様々な人やグループと生徒たちをつなぎ、教師とは別の側面から生徒たちの育ちを見守ることです。
 発表会に参加された地域の方たちと話をしましたが、自分たちの地域で活動した生徒たちをまるでわが子の発表会のように見守っている姿から、皆で高校生たちを育てていこうという心遣いを強く感じることができました。

 

〇 地域連携教育とまちづくりを考える研究会
 飯田OIDE長姫高校商業科の成果発表会が行われた午後は、この取り組みにかかわる様々な関係者と、高校生による「地域連携教育とまちづくりを考える研究会」が開催されました。
 60人ほどの参加者のうち半数は、飯田OIDE長姫高校商業科と、白馬高校国際観光科の生徒の皆さんです。

 

 ▽ パネルディスカッション前半「高校生に必要な学びとは」
 研究会前半はパネルディスカッション。パネラーは東京大学牧野篤教授、リンゴ並木まちづくりネットワーク桑原利彦コーディネーター、飯田OIDE長姫高校Sturdy egg宮澤芽生さん、飯田市公民館小島一人主事、コーディネーターは松本大学白戸洋教授です。
 パネルディスカッション前半のテーマは「高校生に必要な学びとは」。パネラー、コーディネーターの主な発言をご紹介します。

 ▽

▽ 白戸洋さん「地域人教育の進化と生徒たちの育ち」
 地域人教育を学び松本大学に進学したM君は大学4年生、彼は「飯田に帰り、商店街で生きてみたい」と考えています。街中で商店を経営している彼の父は、業態転換も含めて彼の思いを受け止めようと考えてくれるようになったそうです。
 地域人教育とは、縁ある地域を支える人をどう育てるかをねらった教育活動です。
 取り組み始めて6年目を迎える今年、地域の思いと高校の思いが次第につながってきたととらえています。生徒たちも、高校生の活動から、高校生も一緒になった地域の活動へと進化しつつあります。
 一方私は県内初の高校のコミュニティスクールとなった白馬高校で学校運営協議会長を務めています。同校では本年度特色ある学科として国際観光科を設置しました。この学科には地元の生徒たちよりも地区外県外の生徒たちの割合が多く、40人が寮生活を送っています。通学区と居住地域が異なる学校にとってのコミュニティスクールの在り方の難しさを感じています。

 ▽ 小島一人さん「自分がどう感じたかという視点」
 公民館主事として、高校生との対話だけでなく、地域の人たちともよく話をしながら取り組んでいます。
 私自身は「高校生たちがどうしたら育つか」を常に念頭に置いて取り組んでいます。
本日の発表でも、「仮説を立てて、その仮説を立証することで〇〇が分かった」というプロセスで高校生たちが学んでいることが分かりますが、私自身が大事にしていることは、高校生たちがそのことに関わって「どう感じたか」「かかわった相手の人が大事にしていることは何だったのか」「その人と話をして自分は何が大事だと感じたか」、という自分がどう感じたか、という視点です。
 信州学の取組としてREASASを使い、データから情報を整理する学習が広がっていますが、そういう学習の方法に加えて、自分がどう感じたか、という視点を加えることで、深みのある学びが実現できるのではないかと思います。そしてそういう学習視点を持つことができるのが、社会教育の強みだと考えています。

 ▽ 牧野篤さん「多様性の中で対話を通して、新しい価値を創り出す力」
 国の生涯学習審議会に関わっていますが、地域人教育は国の制度のモデルとなる取組です。
 年々発表のレベルが上がっていますが、これは生徒自身の成長だけでなく、生徒たちを受け入れる地域側の成長にもつながります。国のコミュニティスクールは、地域人教育に見られるように、生徒と地域がともに育っていく関係づくりをねらった制度です。
国はコミュニティスクールに加えて、地域学校協働活動を推進しようとしていますが、制度の適用はほぼ小中学校にとどまり、高校が位置付けられていないことが大きな課題です。
 今子どもや若者たちに求められるのは、自分の人生を自分自身で設計する力です。
2030年にはAI(人工知能)の発達で、今の仕事の半分は不要あるいは自動化され、65%から70%は今ない仕事に就くことになるだろうと予測されています。
 これからの時代の子どもや若者は、大人たちをロールモデルとするのではなく、自分自身が社会や仕事を創り出さなければいけなくなる時代です。
 そのためには豊富な社会体験を積んで、自分で社会をつくる力を養うことが必要となります。大事なのは年齢や、文化、価値観などが異なる多彩な立場の人たちと平場で、話し合う経験が必要です。
 それは「ディベート」という、対立する意見をつぶす方法ではなく、異なる意見同士を重ねながら新しい答えを共に創り出す「対話」という方式です。

 ▽ 桑原利彦さん「大人の役割は、場づくり。転ばぬ先の杖にならないこと」
 高校生たちの発想は大人たちの比ではありません。大人たちは物事を考えるとき、失敗することを前提に物事を考えるために、発想の枠が狭まります。
 大人たちの役割は高校生のための場を提供すること。そして手を出しすぎて転ばぬ先の杖にならないようにすること。むしろ転んだあとのフォローの姿勢が大事です。

 ▽ 宮澤芽生さん「地域で学ぶ高校生の姿を大人たちに知ってほしい」
 かつての高校生は教室の中で学んでいましたが、私たちは地域に出て学んでいます。そういう学び方が変化していることを大人の人たちには知ってほしいと思います。
 活動を続けているとやることが前提となり、そのたに義務感が強くなることがあります。活動すること自体が楽しいと思えることが大切で、大人の人たちにはぜひ私たちの活動に共感してほしい思います。

 ▽ パネルディスカッション後半「活動を進めるうえで大事にしたいこと」
 パネルディスカッション後半は、活動を進めるうえで大事にしたいことについて発言していただきました。

 ▽ 桑原利彦さん「高校生の活動を色眼鏡なしで評価する」
 大事なことは2つ。
 一つは高校生の活動を色眼鏡なしで評価すること。
 二つ目は、高校生たちにとって認められることが何よりも大切です。

 ▽ 牧野篤さん「商業は社会に対する信頼をつくる仕事」
 本来の商業は、社会に対する信頼をつくる仕事です。まず人は楽しいからつながっていくものです。新しい食材を使って新しい商品を作ることは楽しいことです。そして地域の人との関係をつくることで商品は売れます。クリエィティビティというのは関係の中で発展していきます。
 売れることでお金が入り、そのことにより関係が強まり、さらに物が売れ、新しい商品が生まれるという循環の姿は、新しい社会をつくっている行為そのものです。

 ▽ 小島一人さん「大事なのは場や環境づくり」
 高校生たちが生き生きと活動できる場や環境をつくることが大事です。そしてそういう場や環境で、高校生と大人たちが一緒になって経験しながら次のステップに上っていくという姿勢を持つことが大事です。

 ▽ 白戸洋さん「信頼関係と人間関係以外は白紙で引き継ぐ」
 最後に地域人教育を進めるうえで大事にしたいポイントを4つお話しします。

 ① 信頼関係と人間関係以外は白紙で引き継ぐ
 長く活動を続けていくと、活動のマンネリが生まれがちです。私のゼミでは後輩への引継ぎは基本的には白紙で引き継ぐこととしています。そしてメンバー一人ひとりは、自分自身の考えで始めることにしています。ただし信頼関係と人間関係だけはしっかりと引き継ぎます。

 ② 地域と学校の関係
 これからは「学校の地域貢献」「地域の学校支援」ではなく、学校と地域がパートナーとして生徒を育てていくという姿勢が必要です。

 ③ 学校の在り方
 これまでは教師が生徒を教育するという関係でしたが、これからは、教師、地域、生徒がともに学びながら変わっていくという、教育そのものを変えていくことが必要です。

 ④ 卒業後の生徒たちのこれからを観ていきたい
 地域人教育で育った生徒たちのうち、進学したメンバーは来年度から社会人となります。生徒たちが社会人となり、これからどのような人生を選択していくか、生徒たちの育ちを見据えながら地域人教育の在り方について見直していくことも必要です。

 

〇 高校生と大人たちによるグループワークから
 地域連携教育とまちづくりを考える研究会の後半は、グループに分かれた話し合いです。
 高校生たちと大人たちが6~7人に分かれ、9つのグループで、話し合いが行われました。
 話し合いの内容を共有するための全体会では、すべてのグループともに高校生たちが報告してくれたことが印象的でした。
 印象に残る発言を紹介します。

 (1) 地域に出ることで座学の大切さがわかる
 地域に出ることの意味について話し合いました。
 地域人教育で地域に出て、お店の方たちと話をしたり、販売計画を立ててみると、簿記の大切さがわかります。地域に出ることで座学の大切さがわかりました。
 白馬高校では実際に外国の人たちと英語で話をする機会が豊富にあり、そのことで英語の力が付きます。
 他の地域に行ってみると、自分の地域を振り返ることができます。
 地域の中に味方や協力してくれる人たちをつくっていきたいと思います。

 (2) いろいろな考え方のある人たちと関わることが大事
 いろいろな人たちとつながっていくことの大事さについて話し合いました。
 一つのことをやり遂げるために経験を共有することの大切さを学びました。そして、相手が気の合う人ばかりではなく、いろいろな考え方のある人たちと関わることが大事であることを学びました。

 (3) 積み重ねの上に今がある
 白馬高校では、コミュニティスクールの取り組みが始まったばかりで、地域への入り方が課題です。
 飯田OIDE長姫高校の地域人教育では、受け入れている地域がすでに用意されています。これはこれまでの積み重ねのおかげです。
 やる気のある人たちが前に出るためにも、そういう人たちを支えてくれる地域の人が必要です。

 (4) 自分の世界観が広がる学び
 白馬高校の観光の授業でふれあう世界や各地から来た人たちの受け入れや、考え方の異なる人たちとの交流、異文化体験などを通して、自分の世界観を広げていくことが大事です。
 メンバーの中には人間関係の行き詰まりや、取組に対する意識に高低などの差ができることは当たり前ですが、そういうグループ全体がチームとしてまとまっていくように取り組むことが必要です。

 (5) コミュニケーションの重要性
 白馬高校では外国人との交流から、飯田OIDE長姫高校では地域、企業、行政の人たちとの交流の中でたくさんのことを学び取っています。SNSでのつながりではなく、顔を合わせることでのコミュニケーションが大事です。

 (6) 若者の特権は行動力
 実際に外国の人に話してみることで英語力はついていきます。
 そういうまずは行動してみる、という行動力は若者の特権です。

 ▽ 飯田市公民館副館長の松下徹さん「大切な学びを実現している高校生たち」
 全体会の最後に何人かの方から発言をしていただきました。
 飯田市公民館副館長の松下徹さんの発言の要旨は次の通りです。
 高校生の皆さんは本当に大切な学びをしていることを実感しました。
 地域に出ることと座学のどちらも大事であるということ、
 数値の分析と人の話や思いを聞くことのどちらも大事であること、
 一人だけで考えるのではなく、いろいろな人たちの話を聞いて自分の肥やしとすることが大事であること、
 いろいろな考えを持つ人同士が交流することで考えが深まること、
 地域人教育の積み上げの中で本当に大事な学びができていることがわかります。
 そしてこれらの学びは社会人として仕事をするうえでも共通しています。

 ▽ 飯田観光協会の吉原さん「高校時代から人としての総合力を磨く」
 これからの時代に人として必要なのは、総合力です。用意したマニュアルや教科書では対処できないことにどう対処できるようになっていくか。これまでだと社会に出てから身に着けていく力を地域人教育では高校生のうちから経験できていることが大変大事なことです。

 ▽ 飯田市議会議員新井信一郎さん「若者の政治参加をテーマに」
 18歳選挙権が法制化されましたが、投票率の低い世代は、高校生から皆さんの親世代です。若い世代の政治参加についても、ぜひ考えていただきたいと思います。

 ▽ 長野県教育委員会有賀浩さん「社会教育と学校教育の融合を」
 地域人教育と白馬高校の教育活動や生徒の皆さんの発言をお聞きして、国が期待している子どもや若者たちの力、すなわち「意識する力」「探求する力」「語る力」が備わりつつあることがわかります。
 ぜひこの教育活動を広げていくことを期待しています。
 地域人教育では公民館という社会教育機関の力を借りて、生徒たちが育っています。学校の中だけで人は育たない時代です。これからは社会教育と学校教育の融合した教育が求められます。

〇 高校生は大人たちから、大人たちは高校生から学び取る
 密度の濃い一日でしたが、高校生は大人たちから、大人たちは高校生から互いに学び取ることができた貴重な一日でした。
 高校生たちの可能性を改めて感じることができました。

自治の質量、千代調査に参加しました 2017年1月18日、19日

 1月18日(月)、19日(火)九州大学八木信一先生と東京大学荻野亮吾先生による、「自治の質量飯田調査」に参加しました。今回は、長野県の横断的PJ「中山間地の地域力、自治力による社会的事業支援研究会PJ」メンバーである地域振興課、農業振興課、文化財生涯学習課の皆さんも同行しました。

 今回の現場は飯田市千代地区です。千代地区は全国に先駆けて農家宿泊・体験を中心としたグリーンツーリズムに取組むなど、住民自治力が高く、多彩な地域づくりの取組みが行われている地域です。

 1973年飯田市は「地域の課題を、住民自身が発見し、解決する学習運動」として「飯田市セミナー」に取組み、全国の公民館・社会教育関係者から注目を集めました。

 千代地区は中山間地域にあり飯田市の水源地ではありましたが、肝心の地域にはきちんとした水道施設がなく、水不足に悩まされていました。そこで公民館広報委員会が中心となり、「水資源セミナー」という市民セミナーを立ち上げ、学習の成果として、簡易水道施設の敷設という成果に結びつけました。このことがきっかけとなり、地区内各集落で、地域の課題解決を継続的に進めるための「同志会」が生まれ、同志会のメンバーが、地域の自治活動のリーダーとして活動を続けてきました。

 今回の調査では、多彩な地域づくりの活動の核となる千代まちづくり委員会の活動と、その活動を支える千代自治振興センター・公民館の役割、そして保育園閉園の危機を乗り越えるために地域住民が出資して設立した社会福祉法人しゃくなげ会の設立経過と活動について聞き取りを行いました。

 

〇 県の横断的プロジェクトの価値

 午前中は、千代自治振興センターの福岡茂己所長から聞き取りましたが、福岡所長からは、地域の課題である鳥獣害対策に中山間地直接支払事業の制度を活用して取り組んでいる事例や、棚田保全グリーンツーリズムの受け入れを、今年度から千代地区で採用し、自治振興センターで勤務する地域おこし協力隊員が窓口となって進めている事例、千代地区の自治力を公民館が主催した市民セミナーの運営に関わった方たちが担ってきた事例などが紹介されました。

 ちょうど中山間地直接支払制度は農業振興課が、地域おこし協力隊員の育成は地域振興課が、公民館振興は文化財生涯学習課が担当しており、県の中山間地プロジェクトチームの仕事と、千代地区の取組みが見事に重なりました。中山間地域の現場では、地域振興が核となりながら、農業や社会教育・公民館の機能が地域の振興の鍵になることは間違いなく、これらの課が横断的にチームを作ることの価値を実感する機会となりました。

 併せて、それぞれの課が縦割りで別々に地域に入るのではなく、統合的なチームとして関わることで、地域の課題を共有しながら必要な資源の投入について担当課が役割分担していくような仕事の仕方ができることになると、人や資源の投入がより有効になるのではないかということも感じました。今年度からは県内10圏域ごとにこれまでの「地方事務所」「建設事務所」「保健福祉事務所」という県の組織の縦割りから、「地域振興局」という統合的な組織に模様替えしたことで、より現場に近い地域振興局と、県庁内の関連部局の統合チームがどのように連携・役割分担していくかも、各地域の活性化を支える県の役割を考える上でも極めて大事な視点であるととらえています。

 

〇 千代まちづくり委員会(自治の担い手)と、自治振興センター・公民館(支え手)の連携

 飯田市の場合、市内20地区に自治振興センター・公民館が設置され、窓口業務だけでなく、地域自治組織の運営事務局の役割も担っています。市役所に近い5地区の場合は公民館主事だけの配置ですが、昭和31年以降、町村合併により編入された15地区には、自治振興センターには所長の他、小さい地区でも2人の窓口職員、保健師、公民館主事が配置されています。飯田市職員の定数800人のうち、100人を超える職員が各地域に配置されている計算です。

 しかし八木先生による類似自治体との財政比較の上では、人件費の比率はほぼ同じであるそうです。ここに自治振興センターが地域自治組織の事務局として活動することで、自治的な活動で地域課題の解決を進めることにより、飯田市財政支出が、より効率的に必要課題に執行できる仕組みとなっているのではないかという仮説を立ててみました。

 また、自治振興センターや公民館での仕事経験が、職員の意識の中に、地域住民の皆さんとの平らな関係性を作ることのできる力量を育てることで、本庁に勤務していても現場視点を持った仕事を行うことで、より柔軟で的確な財政執行が可能となるという仮説を立ててみました。

 千代地区の場合は、全国棚田百選にも選ばれた「よこね田んぼ」の保全、中核性の修学旅行などを農家で受け入れる体験教育旅行などの活動が千代まちづくり委員会の取組みに位置付けられ、その事務局を自治振興センターが担っているほか、地域の景勝地である万古渓谷を観光資源として人々を受け入れるための「万古渓谷会」の立ち上げや運営事務局を公民館が担っているなど、地域の様々な取組みを自治振興センター職員や公民館主事が支えています。

 自治振興センターは、地域の鳥獣害対策のための防護柵の敷設を中山間地直接支払制度を活用して実施したり、よこね田んぼの取組みを進めるための拠点整備の財源を、元気づくり支援金を活用する際の県などとのつなぎ役の役割も担っています。

 飯田市自治振興センターや公民館は、千代自治振興センターの例のように、住民自治を支えながら、団体自治との橋渡し役という役割を果たしています。

 

〇 閉園・統廃合の危機を住民立の社会福祉法人で乗り切る

 千代地区は、飯田市中山間地域にあり、面積は大きいのですが、人口は1,712人(平成29年4月末)と、市内でも小規模の地区です。けれども広い地域であることや地域の歴史的経緯から、千代地区と千栄地区それぞれに市立の小学校と保育園が設置されています。

 平成15年度、千栄保育園の園児数が初めて9人と一けたになりました。飯田市からは保育園の統合が不可避であるという相談がありました。

 地域では、両保育園共に残していきたいという願いから、自治会(まちづくり委員会の前身)による検討委員会を設置し、あり方についての検討を重ねる中で、地域で社会福祉法人を設立し、両保育園の維持を図ろうという結論に至りました。

 社会福祉法人の設立には、経営の安定を担保するために一定の基金の積み立てが必要となります。千代地区では各世帯からの均等負担と、篤志寄付により1,000万円を調達し平成17年に「社会福祉法人しゃくなげ会」を設立し、地元立の保育園の運営を続けています。その後地域の高齢者の自立という地域ニーズを受けて、平成23年には「ディサービスセンター千代しゃくなげの郷」も開所、しゃくなげ会は、地域の課題である少子化と高齢化という複数の課題に対処する地元立の事業体として活動しています。

 

〇 地元立法人ならではのきめの細かな運営

 現在千栄保育園には13人、千代保育園には20人の園児が在籍しています。また夜7時までの延長保育や0歳児保育なども受け入れており、このことにより地区外から子どもを預けるケースもあるようです。併せて学童保育や、入園未満の親子の交流拠点である子育て広場「くまさんの家」の運営など、私立保育園を含めた市内の保育園の中でも、保育サービスの多彩さはトップクラスです。

 またディサービスしゃくなげの郷は現在の定員は18人、老いても地域で暮らし続けられるための環境づくりの役割を担っていますが、定期的に保育園の子どもたちとディサービスに通う高齢の方たちの交流会も行われており、このことによりお年寄りに活気が生まれ、子どもたちはお年寄りとのふれあいを通して人に対する心遣いを身に着けています。これも児童福祉施設と高齢者福祉施設を一つの法人が経営することによる成果といえます。

 しゃくなげ会は、地域の意向を丁寧に受け止めた地元立社会福祉法人として、地区の子育て環境を支えています。

 これら取り組みとは別に千代公民館では図書館と相談し、保育園と小学校に通うすべとの子どもたちに毎年、推薦図書を示してその中から子どもたちが希望する本をプレゼントしています。また公民館の読み聞かせグループが定期的に保育園や小学校に出向いて、読み聞かせの活動などにも取り組んでおり、地域全体で子どもたちを育てようという気風が満ちあふれています。

 

〇 地元ニーズを満たしながら財政負担も軽くする、自治の質量

 保育園の取り組みでは、飯田市からの統合提案に対して、地元立の社会福祉法人の設立により2園の存続を可能とし、飯田市はこれを受けて、民間保育園に対する助成を行う形となりました。地域としては基本的な希望がかなうとともに、これまで以上に充実した保育園の運営がかないました。飯田市としても直営の頃よりも財政負担が軽くなり、かつこれまで以上に地元側に必要な取組みに対する資金援助が可能となりました。

 住民自治と団体自治のバランスを示す自治の質量、という視点から考えると、しっかりとした住民自治があり、地域の課題に自治的に取り組み、地域だけでは解決できない課題を行政がカバーすることにより、行政が効率的な予算執行を可能とする。千代地区の取組みはそのお手本ともいえる事例です。

 しかし課題も生まれています。大きくは3つ。

 一つ目は、グリーンツーリズムや棚田保全の活動など地域づくりに関わる活動のほとんどを千代まちづくり委員会が統合的にマネジメントしていることで、まちづくり委員会の役割が肥大化しています。

 二つ目は、まちづくり委員会の事務局を務める自治振興センターの職員の業務も過重になりつつあります。

 三つ目は、1973年に始まる千代市民セミナーから地区ごとの同志会の運営に至るまで、地域づくりの中核を担ってきた層の高齢化による次世代の育成。

 千代公民館ではこのことを課題とし、次世代の育成を狙った取り組みを進めています。

 一つ目は「ちよ端会議」、千代の将来について皆で考えることをねらいとしたこの組織は、東京大学との共同調査がきっかけで公民館の呼びかけで誕生。本年度は住民意識千代宇佐に取組んでいます。

 二つ目は、「万古渓谷会」、地域の景勝地「万古渓谷」を観光資源として保全活用する組織です。

 それぞれ働き盛り世代が参加しており、次代の千代地区を担う人たちが育ち始めています。

 

〇 公民館は村を育てる慈母である

 昭和23年3月、竜丘村公民館(現在の飯田市竜丘公民館)の開設式で、当時の竜丘村長があいさつで「村政が村を守る父親とすれば、公民館は村を育てる慈母である」と語っています。

 千代地区の場合もまちづくり委員会が地域を守る父親で、公民館が地域を育てる慈母としてその役割が発揮されているととらえています。

 

〇 山本地域づくり委員会学習会

 12月18日(月)の夜は、昨年度調査地とした山本地区で、4月より陣容が刷新された地域づくり委員会の幹部役員を対象に自治の質量についてのこれまでの調査報告会を行いました。

 山本地区では、地域づくり委員会構成メンバーの選出方法や組織についての改正を目指しており、そのことを踏まえての学習会でした。

 

〇 自治振興センター長会「地域協議会の在り方検討PJ」

 12月19日(火)は、自治振興センター長会「地域協議会組織見直しPJ」の皆さんとの意見交換会も行いました。

 地方自治法には地域自治区についての規定がありますが、全国他地域では、地域住民代表による行政政策の協議・決議機関のことを指しますが、飯田市の場合はこの役割を担う地域協議会に加えてまちづくり委員会まで含めたものが地域自治区あるいは地域運営組織として位置付けられています。

 活発なまちづくり委員会の存在に対し、地域協議会の形骸化が課題とされており、このあり方についての意見交換を行いました。

 

〇 橋渡し組織の価値

 各地の地域自治組織は、行政の権限を地域自治組織に渡していく形で形成されています。この場合、団体自治=行政とは一線を引いた組織となることが一般的です。

 しかし飯田市の場合は、橋渡し組織として自治振興センター・公民館を置き、そこに複数の職員を配しています。

 このことにより住民自治の取組みを伴走する役割を担うとともに、自治振興センター・公民館で働いた職員たちが、人事異動により本庁に戻った以降も、現場感覚や住民との協働力を兼ね備えた職員として、飯田市全体が住民自治を支える組織体として機能していくことが可能となります。

 自治振興センター・公民館は、住民自治の現場の運営と、団体自治の在り方改革双方にとって意義のある制度として機能しています。

 今年の調査の中間報告会は3月14日(水)に飯田市役所で開催予定です。

振り返りが大事 上田市で生涯学習センター主催の研修会の講師を務めました 2017年12月8日

1 上田市中央公民館で地域づくり推進研修会が行われました
 12月8日(金)上田市中央公民館で、地域づくり推進研修会が行われました。参加者は80人、県内公民館関係者と上田地域を中心とした市民活動家、社会福祉協議会職員の皆さんなど公民館以外の参加者がほぼ同数です。
 午前中は私がファシリテーターとなり蚕都くらぶ・ま~ゆの安井啓子さんと、上田市上野が丘公民館の山口美栄子さんの実践発表を受けた振り返り会、午後は(株)studio-L代表で東北芸術工科大学教授の山崎亮さんによる講演会です。

 

2 事業以上に大事な振り返り
 特に公民館のような社会教育機関の場合は、事業に関わる人たちが事業を通して何を学びどう育っていったかという視点が大事です。
 かつて私が長野県生涯学習審議会委員を務めていた時代、公民館現場で、モデルとなる事例の視察をさせていただいたことがあります。事例は公民館と地元酒造会社が共同で開催したワイン講座。公民館と酒造会社が共同し、ワイン愛好者の広がりを通して、ブドウ生産農家の振興をねらった講座です。
 実はこの視察で私は公民館職員にこの講座の次への展開について質問したところ、「考えていない」という返事が返ってきました。一方酒造会社の担当者からは、「講座に参加した方たちが次にご自身で仲間や知り合いにワインの魅力を広げてくれるようなワイン愛好家の広がりを期待しています」と応えてくれました。
 私はこの視察から二つの課題を感じました。
 一つ目は、公民館職員の方が、事業を実施することが目的化してしまい、事業の振り返りができていないこと。そのためにせっかくの成果を次につなげる視点が育っていないという点です。
 二つ目は、共同相手である酒造会社の担当者の方と事業のねらいが共有されていないということです。
 私は3月まで勤めていた飯田市の公民館で、公民館長や公民館主事の会議では一番振り返りを大事にしていました。そして特に公民館主事にとっては自分自身の仕事を振り返ることを通して、地域や事業に対するまなざしが生まれ、育っていく姿を見ていました。
 今年4月から県の企画幹となり県内各地の実践や研修の現場で感じることは、事業が目的化していたり、事業のねらいが定められていない、あるいは事業を作り上げるチームの中で共有されていない、そしてそれらのおおもととして事業の振り返りができていないということです。
 今回の研修の午前中は、二つの事例をお聞きした上で、登壇した三人で公開振り返りを行うことを狙いとしました。

 

3 蚕都くらぶ・ま~ゆから、公民館以外の実践を学ぶ
 蚕都くらぶ・ま~ゆは2001年に生まれた地域通貨です。この事例をご紹介したかった理由の一つは、特に公民館から参加された皆さんに対しては、公民館事業の枠の中だけで学びや社会教育をとらえるのではなく、もっとウィングを広げることで、事業を進めるうえで持ちたい共通の大事な視点を見つけたり、公民館以外の学びや活動、人々と自分たちの公民館事業をつなげる視点を持っていただきたかったためです。
 蚕都くらぶ・ま~ゆは、「競争と経済効率を最優先する社会ではなく、いのちのつながりを大事にし、楽しく心地よく暮らせる地域と互いに助け合うぬくもりのある人のつながりをつくる」ことを目的とし、活動の基本は、互いの困りごとを助け合う手間の交換を行っています。加えて上田市中央公民館を拠点に毎月開催されるモノやコトを交換する「ま~ゆ市」、メンバー有志でリフォームした空き家を拠点とした廿日市、味噌づくり、米づくりなど会員の自由な提案にこの指とまれ方式でメンバーが参加するプロジェクトなど、多彩な交流の取組も広がっています
 現在の会員は10代から80代までの200人。ま~ゆが誕生した頃、全国各地で地域通貨がありましたが、多くは途中消滅。これだけ長く続いている取組は希少です。秘訣は手間の交換にとどまらず、参加者同士の自発的で多彩な交流を組み合わせていることです。
 東日本大震災福島原発の事故などで、大都市での暮らしに不安を感じ、IUターンされてきた方たちの居場所にもなっているそうです。

4 大切にしていることは「自主性・主体性」「誰もが主人公」「柔軟性」…
 運営にあたり、次のようなことを大事にしているそうです。
 ・個人の自由、自主性、主体性の尊重。
 ・一人ひとりが主人公になれる場(活躍の場)を多様に作る。
 ・形にとらわれない、お金をかけない柔軟性を持った組織運営。
 ・価値の基準を個人の判断で決定できる。(ま~ゆ交換の場)
 ・新しい価値・文化の創造(「大きいことはいいことだ」的発想からの脱却。これまでの常識を疑ってみる。)
 ・結果を急がない。あせらない。自然のリズムを尊重し、じっくり、ゆっくり育つ土壌をつくる。
 ・他団体との連携、ネットワーク。
 上田市では食と農のネットワークによる「コラボ食堂」の運営、自然エネルギー事業の展開など多彩な市民活動が盛んですが、それぞれの活動とま~ゆのメンバーが重なっており、ま~ゆの活動を通して育った人たちが、さまざまな地域や市民の活動の担い手として活躍する、プラットホームにもなっているそうです。

 

5 地縁団体とサークルを結ぶ ガチャガチャバンド
 上野が丘公民館の山口さんからは、ガチャガチャバンドの活動について報告していただきました。
 山口さんは公民館の仕事を進めるうえで、同じ公民館を利用する団体でも、自治会などの地縁団体と、サークル活動のメンバー同士のつながりがないことを課題と感じていました。また、自治会は男性、サークルが女性と、参加の顔ぶれにも偏りがあります。ガチャガチャバンドは自治会長や民生委員、主婦や自治体職員など多彩で9人のメンバーは男性4人、女性5人で、公民館職員である山口さんもメンバーの一員です。
 昨年発足し、今年7月23日には「真夏の昼の音楽会」という初めてのコンサートを主宰したほか、最近では毎月のように各地の敬老会で招待されているそうです。
 バンドのモットーは「練習しすぎない」「練習しすぎると本番で失敗する」「練習は短時間」「ほめあう」「慰問に行っても決して謝礼はもらわない。ただしお弁当は大歓迎。」「終わったらさっさと帰る。」
 メンバー同士フラットなお付き合いをするために、活動ではニックネームで呼びあっています。「ペペ中山」「ハリー ホッター(ギター)」「アレキサンドラあきこ(ウクレレ、VO)」「こば マロニー(MC、VO)」「ハーレー青木(ギター、VO)」「ラッパおじさん(トランペット、ギタサー、VO)」「セクシーサンタひこ(電子ドラム)」「ヘンリー王子(ボンゴ)」「山口クリスティーナ(ハーモニカ)」。
 楽しんで活動されている様子が目に浮かびます。

6 みんなガチャガチャを抱えて
 山口さんは活動の中である出来事を紹介してくれました。
一つは「トイレ事件」。たまたま演奏会に出向いた現場で、山口さんは女性トイレの中で人が倒れているのを見つけました。すぐにメンバーに声をかけましたが場所が女性トイレであることから力のある男性メンバーがかつけてくれたもののパンツを脱いだ女性の救助であることから躊躇していたところ、女性メンバーの一人が介護施設の職員であったことから、日ごろの経験を活かして速やかに対処してくれました。その時に山口さんは、多彩な職業経験のある方たちが集うサークルの強さを実感されたそうです。
もう一つは「お弁当とおしゃべり事件」。ある演奏会が終わった後、用意していただいたお弁当を食べながら、メンバーの一人から、身内の死について話していただいたそうです。その方は長い間行方が分からなかった方だそうで、こういうメンバー一人ひとりの人生の出来事を語り合える仲間同士であることをとても心強く感じたそうです。
シニア世代のメンバーですから、「大事な人の死」「孫の誕生」「大事な人の病気」「自分の老い」「家族の介護」「子どものこと」「お金のこと」「将来の不安」などそれぞれのメンバーがいろいろなガチャガチャを抱えながらバンド活動をつながりに仲間となっている様子が山口さんの発表からうかがえました。

7 観客のいない芝居
 昭和23年3月、飯田市竜丘公民館(当時は竜丘村公民館)が発足式の際に配られた「公民館報たつおか創刊号」で、当日公民館教養部主事を務められていた橋本玄進さん(本業はお寺のご住職)が「公民館活動は関わる人すべてで裏方から役者までを務める芝居のようなもの、そして舞台から客席を見渡したところそこには人のも観客がいなかった。公民館は観客のいない芝居である。」と書かれていた。
 お二人の発言に共通すること、そして公民館の活動の根っことして大事な言葉であるとお話しさせていただきました。

8 参加者からの「金言」より
 公開振り返り会の締めとして、参加された一人ひとりに紙をお渡しし、公開振り返り会を通して一番印象に残った言葉を「金言」として書いていただき共有しました。それは次のような言葉です。
 「自主性」「ここちよい」「みなさんの出番ですよ」「定期的な集まり」「つぶやき」「ゆるさ」「交流&勇気」「振り返り」「無理しない」「楽しむ」「自分でやる」「想いは口に」「来るもの拒まず」「行ってみる」「言ってみる」
 「金言」には一方で共通性があり、これは二人の活動に共通して大事な要素があったという裏付けですし、もう一方で多様性もあり、これは参加された一人ひとりが少しずつ異なる見方をしていることが分かり、「共通すること」と「多様性」をともにくみ取ることができることが、振り返りすることの意味ではないかととらえています。
 最後に安井さんからは「仕掛け人が必要で仕掛け人となることが大事であると感じた」
 山口さんからは「第三の顔で新しいことをやってみることが大事」
 私からは次のようなお話をし、会を締めさせていただきました。
 「サーバント・リーダーシップというリーダーシップ論があります。これはチーム全体のサーバント(支える人)になり続ける姿勢を持つ人が、皆に支持されリーダーであるという考え方で、これは櫃のチームにリーダーが一人いる状態ではなく、むしろチーム員それぞれがリーダーシップを持つ状態です。二人の事例や意見交換の中で、そういうリーダーが存在するような取組か大事であるということを改めて感じることができました。」

飯田OIDE長姫高校1年生のフィールドスタディの講師を務めました 2017年12月4日

〇 飯田OIDE地域人教育

 12月4日(月)飯田市公民館で飯田OIDE長姫高校1年生によるフィールドスタディための学習会が行われました。

 飯田OIDE長姫高校では平成24年度から、松本大学飯田市とパートナーシップ協定を結び、商業科の生徒を対象に「地域を愛し、地域を学び、地域に貢献する人材」を育てる「地域人教育」に取組んでいます。地域人教育は1年生から3年生にかけての280時間の教育課程で構成されていますが、このうち1年生は「地域を知る」をテーマとし、これまで松本大学のサポートで、松本市の上土町に出かけ、地域調査の方法について学ぶなどの学習に取り組んできました。

 本日と翌5日は、飯田市中心市街地をフィールドに「中心市街地の課題」をテーマに、グループでお店の方たちへのインタビューを行い、まとめを行います。

 調査に先立ち、私は、中心市街地のまちづくりをテーマとした講義を担当しました。

 

〇 講義の概要

 講義の概要は次の通りです。

 ▽ 商業は生産者と消費者を結ぶ仕事

 商業とは生産者と消費者を結ぶ仕事です。そう考えると、生産者や消費者の置かれた地域の状況をまず知ることから始めることが大切です。

 例えば遠山郷では食料品や生活用品を車に積んで売り歩く「移動販売」が行われています。遠山郷飯田市の半分の面積の中に、10万人の飯田市の人口の2%、2,000人しか住んでいません。そして65歳以上の高齢の方たちの割合が50%を超えています。そのため特に高齢の方にとっては気軽にお店に買い物に出かけることは出来ません。そこでお店から高齢の方たちが住んでいる場所に出かける「移動販売」という商業が生まれました。

 ▽ 古来山河の秀でたる 国は偉人のある習い

 これは県歌「信濃の国」6番の一節です。長野県は3つのアルプスに囲まれた、暮らしを営むにはなかなか厳しい地域がおおあります。こういう厳しい条件を克服しようとする努力の中で、偉人が生まれてきたのが長野県である。そういう意味で解釈しています。

 飯田の地も同様で、そういう厳しい自然条件の中で、先人たちは自らの力で課題を克服する生き方をしてきました。

 ▽ 上久堅の取組を例に

 その例を飯田の上久堅の例で紹介します。

 上久堅地区は飯田の中でも少子高齢人口減少の進む地域です。子どもの減少の原因の一つは子育ての環境です。

 地域の人たちは子育て環境のうち、上久堅保育園に延長保育を導入するために、飯田市と交渉し、小学生の学童保育と保育園の延長保育を合体した制度を創設し、延長保育の費用の一部を地元で負担することとしました。そしてその費用の一部をねん出するために、地域の有志が「子育て支援の会」をつくり、会員の積み立てで延長保育の費用だけでなく、保育園や小学校に入園する家庭へのお祝い金を届けたり、保育園や小学校に必要な備品の助成などを行っています。

 こういう取り組みを進めることで、上久堅は子育て環境の良い場所であるという雰囲気が生まれ、このことも理由の一つとなり、IUターンの人たちが選んでくれるようになりました。

 このように飯田の人たちは、自分たちの地域の課題を、自分たちで解決しようという、熱心なまちづくりの取組を行っています。

 ▽ 飯田の中心市街地のまちづくり

 飯田に限らず、日本各地の地方都市で中心市街地は衰退しています。これはモータリゼイションにより郊外にロードサイド店が展開したことが一番の理由です。

 その中で、飯田の中心市街地はその衰退に歯止めをかけるため、まちに住む人たち自らが「飯田まちづくりカンパニー」というまちづくりの会社をつくり、取組を進めています。

 他地域の中心市街地活性化の良くある取組は、大きな商業施設をまち中に誘致することですが、飯田の場合は、まちにもう一度住もうという提案を行ったことです。これを「まち中居住」といいますが、この言葉は飯田で生まれ、全国の中心市街地活性化の取組に広がった言葉です。

 実際中心市街地には分譲型のマンションが3棟生まれ、その周りに住まうために必要な商業施設が整備されています。最近では高齢になってから便利なまち中ですもうと、高齢者専用の住宅などもつくられています。

 飯田の中心市街地活性化の取組でもう一つ大事なのは、まち中で楽しく暮らすことができるために「文化」を発信する取り組みを進めていることです。その取り組みの中心は、イイダ・ウェーブという団体で、ミュージック・ウェーブ、シネマ・ウェーブ、ランナーズ・ウェーブ、サイクリング・ウェーブ、野菜ウェーブ、ワカモノ・ビジネス・ウェーブなど、多彩な文化を発信する取り組みが広がっています。

 まちの中で、自分たちの力でまちをよくしようという、かっこいい大人の人たちにたくさんであったください。

 ▽ まちの課題を考える

 私の話の後に、イイダウェーブやりんご並木まちづくりネットワークのコーディネータを務める桑原利彦さんの講義を受けてから、1年生たちは地域に出かけていきました。

 テーマは「まちの課題を考える」、先生方があらかじめ商店街の方たちに高校生たちがまち歩きをすることを案内し、高校生たちの質問を受け止めていただくよう、お願いをしてあるそうです。

 最近は飯田OIDE長姫高校で地域人教育を学びたいと進学してくる生徒たちも生まれているようです。今日明日にかけての生徒の皆さんのまとめが楽しみです。

自治の質量、飯田調査を行いました 2017年11月28日、29日

 11月28日(火)、29日(水)、九州大学八木信一先生と、東京大学荻野亮吾先生による本年度第1回目の自治の質量調査を、飯田市上村・南信濃地区で実施し、参加しました。

〇 自治の質量調査について

 ▽ 調査のねらい

 

 「自治の質量」は住民自治と団体自治のバランスを指し、八木先生が定義した言葉です。

 住民自治の取組が機能していると、地域の課題解決をまず自治の力で解決します。そして自治の力だけでは解決できない問題が焦点化したところで、行政はその課題解決を補完する政策を立案し執行します。このことにより効率的で焦点的な財政執行が実現することで、健全な自治体財政が実現する、という仮説の下、飯田市を拠点に調査を進めています。

 このことは長野県の中山間地活性化検討チームが検討している中山間地活性支援にかかわる政策枠組みを考えるうえでも共有できる視点であり、本年度調査には活性化チームも参加することになりました。

 昨年度は丸山地区(まち)、山本地区(里)、上久堅地区(山)の3地区を調査しましたが、本年度の調査地は上村地区と千代地区です。加えて飯田市が20地区ごとに取組みを始めている「田舎へ還ろう」戦略についての聞き取りも進めることになりました。

 

 ▽ 遠山郷について

 

 上村・南信濃地区を総称して遠山郷といいますが、この地区は平成18年に飯田市と合併した地域です。人口は両地区で2000人ほどですが、面積は飯田市の総面積の約半分を占め、このうち山林面積が98%と山間の地域です。両地区には「霜月まつり」という国の重要無形文化財にも指定されたお祭りがあります。毎年12月の上中旬に行われるこのお祭りは、平安時代後半から鎌倉時代にかけて始まったと言い伝えられる伝統行事で、神様がお湯を浴びて元気になるという、宮崎駿監督の「千と千尋の神隠し」のモチーフにもなりました。

 

 ▽ 上村下栗地区について

 

 遠山郷は地理的にも飯田市の中心から離れて、車で片道1時間近くかかることから、上村下栗にある民宿みやしたに宿泊させていただき、泊まりがけでの調査となりました。

 民宿みやしたには、宮崎駿監督が3度泊まりに来られているそうで、宮下を経営されている野牧さんご夫婦を主人公にした「ちゅうずもう」という絵本がつくられ、短編アニメにもなっているそうです。私たちが泊めていただいた部屋からは、南アルプス赤石岳や兎岳などが眼前で眺めることができました。

 下栗地区は昭和40年代中ごろまでは、車が通る道はなく、大きな荷物は馬や架線(いうなれば荷物用の小型ロープウェイ)を使っていたそうです。

 現在は廃校となっている上村小学校下栗分校にはピアノが今も残してあります。実は私の亡父が仕事で納入したものなのですが、当時地域の人たち総出となって、人力で何キロもの山道を持ち上げて運んだそうです。

 ご夫妻の息子さんでもある野牧和将くんは、現在上久堅公民館主事でもあり、昨年の結婚式では私も招待していただいています。

 夕食後は、ご主人の野牧権さんや和将くん、和将の奥さんの千恵美さんたちといろりを囲み、下栗の歴史や文化についていろいろなお話をお聞きすることもできました。

 翌日は和将くんの案内で、日本のチロルともいわれる下栗の外観を見ることのできるビューポイントや、下栗地区の霜月まつりの舞台である拾五社大明神なども案内していただきました。  神社では、和将くんの笛の演奏も聞かせていただきました。

 ▽ 猟の文化の遠山郷

 

 遠山郷は江戸時代から林業で生業を立ってきた地域で、明治時代には王子製紙がパルプの原材料の生産地としていたことから経済的にも大変栄え、南信濃の和田地区は遊技場や映画館なども備えたにぎやかな街並みを誇っていました。

 また、猟も盛んで、クマ、イノシシ、鹿などの山肉を食する文化は今も残っています。「遠山のジンギス」で知られる山肉加工の肉のスズキヤさんを訪れた時にちょうど、猟師さんが仕留めたイノシシを持ち込まれていました。猟師さんは85歳になる高齢な方ですが、大変かくしゃくとされていました。

 山の獣は家畜と異なり平常の体温が高いことから、良質な食肉とするためには、仕留めたその場で血を抜いて内臓を取り出すことが必要で、猟師さんには、仕留める腕以上に、仕留めたあとの始末の技術が求められるそうです。

 

 ▽ 上村小水力発電事業

 小澤川での小水力発電事業

 

 ヒアリングには上村自治振興センターの山崎所長に対応していただきましたが、ヒアリングに先立つ現地視察では、「かみむら小水力株式会社」代表取締役の前島衛さんに案内していただきました。

 平成20年度、飯田市は環境モデル都市として、全国13都市の一つに選ばれました。環境モデル都市は、温暖化防止に向けて2050年を目標年次に、具体的な削減目標を定め、そのための統合的な政策を進めるモデルとなる自治体です。上村の小水力発電事業はもともと、モデル都市提案の一つとして飯田市が発想したものです。小沢川は上村地区の中心を流れる上村川の支流ですが、源流は南アルプスにある水量豊富な河川です。

 一方平成18年度上村地区は南信濃地区とともに飯田市と合併しましたが、合併後も人口の社会減が進み、合併時に約800人であった人口が現在では400人強と半分近くに減少しています。このことは特に子育て世代に顕著で、小学生以下に子どものいない学年がいるなど、保育園や小学校の存続問題も顕在化しています。

 飯田市から提案された小水力発電事業を、上村地区では、こういう地域課題解決に向けた地域独自の財源として活かすことで、持続可能な地域づくりに結びつけたいという考えの下、10年近く上村地域と飯田市が協働で研究・検討を進めています。

  地域環境権条例

 

 太陽光、木質バイオマス、水力など化石起源ではない再生可能エネルギーの活用は、世界各地で進められていますが、日本において特に太陽光発電は、メガソーラーに代表されるように、大手企業が事業として取り組むケースが多く、地域発での取り組みが広がりません。

 飯田市は平成25年に飯田市再生可能エネルギーの導入による持続可能な地域づくりに関する条例」=通称「地域環境権条例」を制定しました。この条例はいうなればエネルギーの自立あるいは自治を進めるために、地域発の取組みを飯田市が積極的に応援することをうたった、全国初の条例です。

 また、条例の趣旨を実現していくために、学術、技術、法律、金融などの専門家によって構成された「飯田市再生可能エネルギー導入支援審査会」を設置し、各地域の取組みに対して専門家としての知見を提供しています。

  かみむら小水力株式会社

 

 検討は平成21年から飯田市と上村まちづくり委員会との間で始められ、発電事業に向けた技術面や地権者との協議、事業主体の設立に向けた研究・検討などが重ねられ、平成26年9月事業主体としての「かみむら小水力株式会社」を設立、株主としての法人格を持つために「上村まちづくり委員会」の認定地縁団体化などが進んでいます。

 この事業では事業規模を、小水力発電としての認可を受けるための上限である最大取水量時出力200kw以内とし、年間想定発電量を約120万kwとしています。国の定めた再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度=FITでは、現在1kwあたりの買い取り額が34円ですから、年間4,000万円ほどの売り上げが期待されます。とはいえ建設費用も数億円と試算されていますから、建設費用の償還を差し引いた差額の利益を、地域の課題解決のために投資するというしくみです。

  売電収益を活用した、地域再生のプロジェクト

 

 平成25年度からは、水力発電事業の売電収益を活用して、地域再生を進めるために、「地域・福祉」「食」「農」「観光」「交通」「水と森の資源」という6つの分野に分けて、取組みの具体化も始まっています。

 特に「食」の分野では、地域の女性の皆さんによる「上村御前」が誕生し、試食や空き店舗を活用した事業化なども検討が進められています。

 これも一つの協働の姿

 もともとは飯田市からの提案を地域が受けた行政主導の取組みですが、地域環境権条例を裏付けとして、地域主導の取組みとなるために、地域住民の皆さんを主体とした多彩な学習会を飯田市職員も丁寧に向き合い、共に悩みながら積み上げて今日に至った取り組みです。

 

 「かみむら小水力株式会社」の役員には地域在住の20代、30代の若者も名を連ね、学びを通して次世代が育ちつつあり、持続可能な地域づくりに向けた地域側の備えも生まれつつあります。

 ヒアリングに先立ち事業地である小沢川の取水地や、発電所予定地などを視察させていただきましたが、思った以上に大規模な事業であり、事業体設立までの時間をかけたこれまでの上村地区の皆さんと、飯田市の熱心な研究・話合いと、事業化に向けたこれからの取組みの中に、地域と行政の協働の一つの姿を見ることができました。

 

〇 チーム遠山郷による「田舎に還ろう」

 ▽ チーム遠山郷について

 

 参加してくれたのは上村自治振興センターの山崎所長、南信濃自治振興センターの高田所長、南信濃公民館の林主事です。

 本年度より飯田市では、市内20地区ごとに移住定住者を獲得するための「田舎へ還ろう」の取組が始まりました。本年度は取組を進めるためのエンジンとして、それぞれの自治振興センターと公民館の職員が中心となり、職員側のチームづくりが進められています。

 チーム遠山郷は、上村と南信濃飯田市機関に勤務する職員有志28人で構成されています。2つの地区が合同したこと、保育園や福祉企業センター、診療所など、自治振興センターや公民館以外の職員まで広げていることなど、他地区にはない取り組みです。

 上村・南信濃両地区は、平成18年度に飯田市と合併した地区ですが、飯田市の約半分を占める面積のうち98%が山林で、2,000人弱が居住しています。平安・鎌倉時代が起源といわれる「霜月まつり」の伝承、山肉文化など、独特な文化風土を持つ地域で、遠山郷と総称されています。

 そこで両地区では田舎に還ろう戦略を、両地区が統合的に取り組むために、「チーム遠山郷」を結成しました。

  ▽ 4つのプロジェクトに分かれて

 

 現在はチーム全体が意識を共有するための学習会に取組んでいます

 その中で取り組みを進めるために必要な課題を整理し、遠山郷分析」「人の流れを作る」「子育て環境」「遠山郷ふるさと納税」の4つのプロジェクトを設け、チーム員がいずれかのプロジェクトに所属して、検討を進めることになりました。

 「遠山郷分析PJ」は、プロジェクトを取組むにあたって、集落ごとの状況も含めた地域分析や、地域が求める移住者ニーズ、かつて転出した方たちの情報など、必要な情報分析を行います。

 「遠山郷ふるさと納税PJ」は、今年度から飯田市ふるさと納税制度が、飯田市に対する納税と併せて、20地区のいずれかの取組の資金に対する納税制度を創設したことに合わせて、遠山郷へのふるさと納税を進めるための取り組み方法について検討います。

 「人の流れを作るPJ」は、遠山郷の魅力発見、活用発見、移住ツアーなどの検討を行います。

 「子育て環境PJ」は、遠山型保育(山保育)の実践検討や移住者が魅力を感じる子育て環境について検討を行います。

 これまで持続可能な地域社会総合研究所長の藤山浩さんや、佐藤飯田市副市長などを講師とした学習会などに取組んでいます。

 ▽ 先行取組としての山暮らしカンパニー

 

 現在は職員自身が課題当事者としての意識を共有する段階ですが、最終的には地域住民の皆さん自身の取組となることを目指しています。

 山暮らしカンパニーは、若者たちによる当事者主体の先行的な取り組みです。歴史あり、文化あり、自然豊かな遠山郷で暮らすことに魅せられた若者たちによる取り組みです。このマチに住む若者の可能性を広げ続けることをミッションとし、好きなマチを担う若者の好循環が生まれることをビジョンとし、活動しています。

 中心メンバーは4人、飯田市内の精密機械会社に働くUターン、介護の仕事の傍ら猟師の修行中のIターン、他地域で働きながら遠山郷への貢献を模索する青年と、それぞれの立場は異なりますが、それぞれの思いや力を重ねることで、活動を始めています。

 現在の活動は空き家を手作りでリフォームした「COM(M)PASS HOUSE」の運営、若者たちのコミュニティづくりを目指した「南信州ゆかり呑み」、滞在型イベントとしての「真夏の大感謝祭」、情報・メディア運営の「遠山GO HOME」など。

 「COM(M)PASS HOUSE」は、COMM=共有、共同体、PASS=道、通過点HOUSE=家、家族を合成した言葉で、集う人たちが一人ひとりのコンパス=羅針盤を見つけることができる場所となることをねらっています。来年3月の開設を目指して、準備が進められています。

 南信濃公民館主事の林君から「山暮らしカンパニー 相談役 林優一郎」という名刺をいただきました。これは山暮らしカンパニーのメンバーから林君の誕生日にプレゼントされたそうで、彼らの仕事に寄り添ってきた公民館主事としての林君の存在が彼らにとっても大変頼りになっていることの証です。

 

〇 まずは職員の意識づくり、そして住民主体の取組へ

 

 田舎へ還ろう各地区の取組が、まずは住民の活動に寄り添う姿勢や意識を職員同士が共有し、山暮らしカンパニーのように、当事者主体の活動に広がっていくことが期待されます。

北海道「学びを通した地方創生コンファレンス」で高校生と話し合いました 2017年11月24日

 11月24日(金)札幌にある道立道民活動センターで「学びを通じた地方創生コンファレンス」に参加しました。 

〇 主催の北海道公民館協会について

 

 主催は北海道地方創生コンファレンス実行委員会と北海道公民館協会です。

 同協会には道内にある179のうち78市町村が加入していますが、特徴的なのは会長が平取町の川上満町長で、組織のなかには首長部会もあり、公民館運営を多くの首長が支えている点です。そして首長の皆さんが社会教育を学ぶセミナーも行われています。

 川上町長も町役場に採用された最初が公民館で、公民館や社会教育が、地域の人材を育てる機関として大変重要な役割を持っているという考えを持っておられました。

 長野県の公民館の振興を考える上でも、公民館職員の人事や予算を握っている首長の理解は大変重要なポイントと考えており、北海道の体制は大変参考になりました。

 

〇 参加者の中心は高校生と大学生

 

 今回の集会の参加者は90人。特徴的なのは参加者の半分が高校生と大学生であったことです。

 午前中は座学でしたが、午後は8つのグループに別れたワークショップで、ほとんどのグループの報告者は高校生か大学生で、とてもフレッシュでした。

 

〇 最初は隠岐島前高校の事例から

 

 会冒頭は文科省初等中等局財務課専門幹の中川覚敬さんによる隠岐島島前高校の取り組みについての話です。

 中川さんは高校教師の経験から、国の教育を変えたいと一念発起して文科省に入省した経歴を持ち、隠岐島へも志願して2年間出向されたそうです。

 島前高校は島留学など今では日本で一番有名な高校ですが、村役場職員や村民の皆さんが本気になって村を何とかしようという思いが、高校生たちにとってのロールモデルとして、育ちによい影響を与えているというお話が印象に残りました。

 

〇 事例研究は札幌市立屯田小学校と飯田市の取り組み

 

 続いて行われた事例研究では、札幌市立屯田小学校の新保元康校長と私が報告者となり、東京大学教授の牧野篤さんのコーディネートで進められました。

 新保さんのお話は、赴任したどの学校においても、地域の方たちとのコミュニケーションを大事にし、その方たちの力を借りて豊かな子どもたちの育ちを実現している実践的なお話でした。

 私からは参加者に大勢の高校生がいることから、飯田市公民館が取り組んでいる「高校生講座カンボジアスタディツアー」を例として、講座を通した生徒たちによる、社会の本質に自分たちの言葉で迫っていく深い学びや育ちと、高校生たちの育ちを支える公民館職員や大人たちの関わりについて話をさせていただきました。

 

〇 若者参加をテーマとしたグループワーク

 

 午後は、若者参加をテーマとしたグループワークです。8つに分かれたグループは、高校生や大学生と、引率の教諭、道内市町村の公民館職員などが混在するグループ分けで進められました。

 私が参加したグループは札幌新陽高校生が二人、北海道寿都高校生二人、北翔大学谷川教授、北見市公民館主事、名寄市公民館長と私の7人です。

 前半は若者が地域活動に参加しない理由を考え、後半はそれら課題を踏まえて若者たちが参加しやすい地域活動について考えました。

 

〇 若者に任されて、楽しめて、最後に感動できる事業

 

 私たちのグループがまとめた、若者が参加しやすい事業のキャッチフレーズです。

 私たちのグループでは、話し合いの内容を「参加の入り口」「取り組みの内容」「参加の出口」に整理しました。

 参加の入り口で大事にしたいことは、若者たちに企画や運営などが任せられること。取り組みの内容では、若者たちにとってお手本になるような、本気の大人に出会えること。出口は参加して良かった、あるいは親しい仲間ができたなど、感動が残ること、とまとめました。

 実は言葉出しは大人たちも一緒に取り組んだのですが、それらを分類整理して、報告に至るまではすべて4人の高校生たちに任せました。

 

〇 大人たちにとっての学び

 

 参加した公民館職員の皆さんに共通する傾向は、職員が事業の企画運営などをお膳立てし、お客さんとして若者に参加してもらうという発想でした。

 そのため多くの分科会のまとめは、若者たちに届く告知方法など主催者側の課題になってしまっていました。

 高校生に限らず、公民館職員の皆さんにとって事業の企画運営は職員の仕事で、住民はお客様という関係性の上で、社会教育をとらえている傾向があるようです。

 社会教育は学習の主体者が何を学びどう育つかがその本質であると考えると、職員の皆さんの意識の変革が必要であると感じました。

 

〇 まとめは新居浜市の関福生教育長と牧野教授

 

 会のまとめは新居浜市教育長の関福生さんと牧野先生。関さんは同市の公民館を住民主体で地域課題を解決する公民館に育てた人物でもあります。

 

〇 ダイバーシティで育つ若者たち

 

 とはいえ、今回の企画が高校生や若者たちが中心で行われたことは極めて画期的なことであると感じています。

 大人と若者、大学生と高校生、他校の生徒同士など多彩な参加者の中でのコミュニケーションを通して、自分と異なる考え方と交わりながら、これまでと異なる発想を得られる今回のような機会に若者たちが参加することで、次世代が育ち、公民館職員も育つ学習会でした。

 こういう学習会を、長野県でもぜひ実現したいと考えました。

 大変実りの多い出張でした