信州学サミット~信州・学びの旅に出ように参加しました 2017年10月21日

〇 信州学サミット~信州・学びの旅に出よう

 

 10月21日(土)JR長野駅で「信州学サミット~信州・学びの旅に出よう」が開催されました。

 信州学とは県内すべての高校生たちが、自分たちが生まれ育った信州というアイデンティティを持って自分たちの進路を考えてもらいたいと、長野県教育委員会が提唱している取組です。

 平成27年度には「私たちの信州学」というテキストもできました。信州学は特定の教科ではなく、各学校の教育課程の中で創意工夫して取り入れることとなっていますが、職業高校では課題研究の時間、普通高校では総合的な学習の時間に取り入れられることが多いようです。

 平成24年度から取り組んでいる飯田OIDE長姫高校の地域人教育は言うなれば信州学の先駆けとなる取組と言えます。

 

〇 オープニングパネルディスカッション

 

 この日は長野駅コンコースでの信州学に取り組む各高校のボスターセッションや、長野駅に隣接したMIDORI長野りんごのひろばが会場となった信州学に取り組む10校の実践発表のほか、オープニングパネルディスカッションが行われ、私もパネラーとして参加しました。

 進行役は教学指導課の柳沢忠男さん、パネラーは私の他に信州学推進委員会推進委員長で信州大学教授の石澤孝さん県立長野図書館の長の平賀研也さん北部高校校長の市川裕子さん飯田OIDE長姫高校3年の宮澤芽生さんが登壇しました。

 印象的な発言を紹介します。

 

 ▽ 問題解決と課題解決の違い~平賀研也さん

 

 信州学を通して郷土愛や社会生活を送るための様々なスキルが身に付いていくというのも大切なことですが、それ以上に大切なのは自分が未来にこうありたいと言う生き方ビジョンをつくることです。そのためには問題ではなく課題に向き合うという姿勢が大切です。

 ここでいう問題とは試験問題を解くというような今目の前のことに対処するというような意味で、これにたいして課題とは、組織の目指している目標を達成するというような、未来やビジョンに向き合うという意味ととらえました。

 

 ▽ 教科書にある人ではなく、ちまたで素敵な生き方をしている人たちの存在に気づいていきたい~市川裕子さん

 

 北部高校の信州学の取組では、地域の方たちに大変お世話になっているけれど、たとえば地域の伝統食を若い世代に伝えていこうと活動している「だんどりの会」の宮本久子さんのような、ちまたで素敵な生き方をされている人、あるいはされていた人たちの存在を、生徒たちに気づいてもらいたいと思います。

 そのためにはまずは先生自身の姿勢が試されます。

 

 ▽ 大人たちに気づいてほしい、昔と今の高校生の違い~宮澤芽生さん

 

 地域人教育の取組を通して、今日のような場でもいろいろな質問にたいして自分の言葉で答えられることができるようになったり、地域の大人の人とのつながりがたくさん生まれたり、自分自身が変わってきたなと感じています。

 こういう経験は本当は高校になる前から積み重ねていくことができるとができるともっとよいと思います。大人の人たちにはもっと小中学生時代から、地域人教育のような経験を子どもたちにしてあげられるようなことを考えてほしいと思います。

 

 ▽ 比べてみる鏡が大切

 

 以下は当日の私からのメッセージです。

 参加された高校生にとって、自分たちの暮らしている信州の良さを知るためには、自分の住んでいる地域のことをしっかり調べることにあわせて、それ以外の地域のことを知ることを通して、それを鏡として振り返ってみる経験も大事です。

 飯田市の公民館で行っている「高校生講座カンボジアスタディツアー」のねらいもそこにあります。

  地域の先に社会を見ること

 

 明日の衆議院選挙に向けて飯田下伊那の高校生有志が、高校生たちの投票率を100%にしようと「飯田下伊那高校生100%計画」というグループを作り頑張っています。

 youtubeで長野4区に立候補した3人の候補者に高校生たちが一時間を越えるインタビューをしていますが、それを見て高校生たちの意識の高さに感動しました。

 この取組のそもそもは、飯田OIDE長姫高校のsturdy eggやカンボジアスタディツアーに参加した高校生たちのつながりから始まった取組です。

 地域を学ぶことの先にぜひ、広く社会のことを考えることができるような視野を広げてください。

  かっこいい大人、仲間、誰かの役に立つ、ふりかえり

 

 信州学の取組で大事にしてほしいのは4つ。

 一つ目は、かっこいい大人の人たちとたくさん出会い、そういう人たちの生き方から学ぶこと。

 二つ目は、そういう取組を一人でするのではなく、取組のなかで、心を許して話のできる仲間を作っていくこと。

 三つ目は、誰かの役に立つ活動をすること。

 四つ目は今日のような自分たちの活動を皆に伝える機会を大事にし、そういう機会に自分たちの活動を振り替える機会をつくること。

  大人はまず大人みがきから

 

 先生を含めて高校生の学びに関わる大人たちは、高校生たちに何かやらせようとする前に、自分自身が高校生のお手本となる生き方ができているか、まず自分磨きをすることが必要です。これは自分自身のことも含めてです。

  高校生たちの発表も素晴らしかったです。

 

 特にOIDE の生徒の皆さんの発表は、自分の言葉で、相手に伝わる話し方もできており心に残りましたが、他の高校生たちの発表もとても素晴らしかったです。

  

〇 先生の意識変革

 

 事例発表団体の一つ、長野高校の担当の先生と話をする機会があり、いくつか質問しました。

 長野高校は「ジェンダー」についての研究発表をしたのですが、進行役の柳沢先生から生徒に対して「この研究をしたことが自分の進路に影響を与えたか」という問いに対して「ない」と答えていました。その生徒は男子生徒なのですが、発表の中でも、ジェンダーの問題に対して自分はどう考えるのか、という考えは披露されていませんでした。先生と話をして感じたのは、あくまで信州学は、探究的な学び型の実習の場ととらえているとのこと。また、進学のための学習と総合的な学習の場で行う信州学は切り分けて考えているとのことでした。

 信州学の本質は、学習の手法ではなく、生徒自身が信州学を通して、自らの生き方の糧にしていくこと、そう考えると先生たちの指導は到底そこに及んでいないということを強く感じました。

 信州学を進めていくための課題は、信州学のねらいをしっかりと把握して、そういう指導ができるような教員の意識変革と力量強化にあるととらえました。

 

〇 地域側の支える仕組み

 

 高校生の事例発表の多くは、それぞれの高校の位置する地域の自然や歴史などの特徴紹介に終わっており、肝心の地域で暮らしを営む人の姿が見えてきません

 信州学にとって最も大事な学習の要素は、生徒たちにとって魅力的な大人たちとの出会いととらえています。これは高校の教育にとっての弱みであり、飯田OIDE長姫高校や北部高校のように地域の側で、高校生たちと地域の魅力ある大人たちをつなぐ働きかけができる仕組みづくりが必要であると感じました。

 公民館や社会福祉協議会のように地域と密着した機関が高校と協力し、この取り組みを通して地域と生徒を結び付けていくような仕組みづくりが課題ととらえました。

飯田市の公民館にインターンシップで赴任している尼崎市職員の振り返り会に参加しました 2017年10月10日

 10月10日(火)、飯田市公民館で、6月より尼崎市から飯田市インターンシップとして赴任している桂山君(竜丘公民館)と前阪さん(上久堅公民館)の月に一度の振り返り会を行いました。

 振り返り会は、長野県参与で尼崎市顧問でもある船木成記さんが進行し、受け入れ側の公民館主事である熊谷君(竜丘公民館)、永田さん(上久堅公民館)、参事で飯田市公民館副館長松下君、補佐の氏原さんも参加しました。

 ちょうど両地区とも10月8日(日)に地区最大の行事である運動会が終わったところです。また、両地区とも11月には地区のもう一つの大きな事業である文化祭に向けた準備も進めており、それぞれの取組みとそのプロセスの中の気づきを中心に振り返りを行いました。

 インターンシップとして赴任している職員の皆さんや、受け入れ側の飯田市公民館だけでなく、広く公民館や自治、社会教育の在り方を考えるうえでも大事な気づきをもらえる機会でした。

 印象的な発言をご紹介します。

 

〇 大事なのは事業よりもそのプロセス

 

(前阪)

 11月18日(土)、19日(日)に行われる上久堅地区文化祭のうち、小学校体育館で行われる企画を担当しています。ステージでは地区の芸能グループなどによる発表が行われますが、広い施設で後方のスペースが空いている状況です。そこで文化委員会では、後方で子どもたちが楽しむことができる企画を入れ込もうという発案がありましたが、文化祭実行委員会では、子どもたちが騒いでいると発表会に参加する人たちの迷惑になると否決されてしまいました。せっかくの文化委員の発意が実現するために、公民館主事としての関わり方があったのではないかと反省しています。

(船木)

 公民館は、事業の成功を目的とする以上に、事業に関わる住民同士が事業に向けた話し合いのプロセスを大事にするという視点が必要です。「この仕事を成し遂げたのは我々だ」と皆が思えるような取組みであることに意味があります。

 

 

〇 公民館を一人ひとりの居心地のいい場所とする

(氏原)

 

 丸山公民館主事の時代の文化委員長のことを思い出しました。当時の文化委員長は委員会を引っ張っていくというリーダーシップではなく、いろいろなことに気配りがきく方で、文化委員会に参加した人たちが、居心地がいい場所と感じるような雰囲気作りを大事にしていました。公民館や自治の現場というのは、必ずしも何かを決める場所でなくてもよく、○○さんがここにいても良い、という参加の場所としてとらえることが大事だと思います。

 

〇 その時々に柔らかく変わる、公民館主事の役割

 

(氏原)

 これも丸山公民館主事時代の経験ですが、場づくりを大事にしていた文化委員長と異なり、体育委員長は引っ張っていくというタイプの方でした。そこで公民館主事の私は、体育委員会では、体育委員会一人ひとりがこの会議に参加して良かったと思えるような雰囲気づくりに務めました。公民館主事は、その場の状況を把握しながら、良い場づくりとなるために、自分の役割を果たしていく仕事であるととらえています。

 

〇 公民館主事は風の立場でもある

 

(桂山)

 古墳の会の事務局を担当していますが、古墳の出土品の調査活動をすることになりました。長く古墳保存の取組みに関わっている人たちはご自分でどんどん進めようとされていますが、そうではなく皆の力で調査活動をしていった方が良いと考えるメンバーもいるのですが、それぞれの意見が折り合えず、メンバー全体がチームになりきれていない状況です。

 

(松下)

 参加者一人ひとりに温度差があるのは当たり前です。そんな時、地域の人同士の関係だけだと閉塞感に陥ってしまうところを、上手につないでいくのも風としての公民館主事の役割です。

 

(船木)

 古墳保存は30年以上続いている活動です。代が代わりながらも継続している活動の中で6ヵ月という期間事務局に関わる桂山君にとって、すべての課題をその間に成し遂げるのではなく、自分のいる間にはここまでを成し遂げるという中間目標を作って向き合うことが大切です。

 

〇 公民館活動で大事にしたいこと

 

 

(松下)

 それぞれの現場で、活動に関わる地域の人々にとって自分が決めていけるという裁量があることでものごとに関わることができることが大事です。公民館主事はそういう場づくりを常に心がけていくことが必要です。

 

(船木)

 公民館活動や自治の活動は大きな流れを見通しながら、公民館主事や役員が代わりながら、その時その時に皆がコミットしたというプロセスを残していくことが大事です。

 

(松下)

 公民館に関わる一人ひとりが、活動について、自分の言葉で関わることができるようになることが大事です。

 

〇 公民館役員とリーダーシップ、メンバーシップ

 

 

(熊谷)

 竜丘地区運動会の反省会の場で、運動会の振興の中でも大事な役回りである審判委員長について話し合った。来年の委員長は、自分は引っ張っていくことができる性格ではなく、審判委員長を務める自信がないという発言をしました。これに対して他のメンバーからは、委員長が一人で役を抱えるのではなく、皆が支えていくからぜひ前向きに受け止めてほしい、という発言がありました。引っ張るリーダーシップではなく、皆に任せるリーダーシップ、失敗を許容するリーダーシップなど、リーダーシップにもいろいろなタイプがあると考えています。

 

(船木)

 事を起こすために理想のメンバーを集めるのではなく、そこに集まったメンバーの中で補い合うという視点が必要です。

 

〇 学ぶことを目的化しないこと

 

(前阪)

 良く「学び」が大事というけれど、そういう「学び」を入口とすると、堅くなってしまいます。「遊び」「楽しみ」という表現の方が入りやすいと感じています。公民館主事として、一人ひとりの役員がどういうところが楽しいのか、様子を見ながら関わることが大切であるととらえています。

 

(船木)

 学びを目的化してはいけません。当人は学んでいると思っていなくても、結果として学んでいる、ということが大事です。

 

〇 大事なのは協働の現場を肌で感じること

 

 

(船木)

 二人が半年間で経験したことで、持ち帰ってその経験だけで尼崎の地域自治や学びの仕組みを変えていけるわけではありません。二人に期待しているのはまず、飯田の公民館の現場で、住民と行政職員である公民館主事が協働するとはどういうことかを肌で感じることです。まずは自分自身の実体験を積むこと、そのことを意味づけておくことを大事にしてください。

中山間地PJで、広石拓司さんの研修会が行われました 2017年10月10日

〇 empublic広石拓司氏による県庁職員研修会

 

 10月10日(火)県庁で「中山間地域の住民力・地域力による社会的事業支援研究会」が主催する㈱empublic広石拓司氏の研修会に参加しました。

 参加者は、標記プロジェクトを構成する地域振興課、農村振興課、楽園信州・移住推進室、交通政策課、文化財生涯学習課の他、職員キャリア開発センター、創業・サービス産業振興室、人材育成課、都市・まちづくり課など、各分野で人材育成を課題としている課が横断的に集う場となりました。

 

〇 船木参与より

 

 本日は人材育成に関わる様々な課が横断的に集う場となりました。これからの県の事業が、固定した各部局ごとの役割分担型でなく、その時々のテーマに応じて関係した部局が集うプロジェクトベース型で、かつそこがチームとして進めていくことができるようになることを期待しています。

 長野県としてこれまでは中山間地域は遅れている地域というとらえ方をしてきました。そして国は中山間地域の中で頑張っている地域だけを拾っていこうという政策を進めています。

 そうではなく中山間地域を自然との共生や農ある暮らしなど、人々が暮らすうえでの知恵の集積された地域ととらえ、そういう地域の課題に向き合いながら持続可能な地域として再生させていく、という考え方が必要です。これからは中山間地域をクリエイティブ・フロンティアととらえていきたいと考えています。

 また長野県は平成の大合併において小規模の町村の多くが残り、現在77の市町村があります。これはより身近なコミュニティ単位で自治体が残っており、それだけ住民自治と団体自治の距離が近いということでもあります。

 一方自治体の規模が小規模であるということは、小規模自治体は人的にも財政的にも限られた中で政策を進めざるを得ず、こういう基礎自治体で手の入らないところに県が支えていくという視点を持って関わっていくことが必要です。

 こういう基礎自治体や住民自治の取組みを県として支えるためには、県職員のリテラシー(あり方)自身を変えていくことが必要です。本日キャリア開発センター所長に参加していただいた意味はここにあります。

 

〇広石さんの講義から(文化財生涯学習課 田中さんのメモです)

1 「あなたの力が必要なんです」 起業家の支援

 何かを始めようとするとき、初めに口火を切ることや、手を挙げることには戸惑いが多い。なぜなら、反対されるのではと考えてしまうから。なぜ反対されると感じるのか。それは、協力し合える関係が築かれていないから。

 例えば、何かイベントがあったとして人員不足で困ったなぁというとき、どう周りにお願いするだろう。「人がいないの、困ってるの、とにかく誰でもいいから助けてほしい!!」と手伝ってもらう。または、「あなたならこの仕事に適任だと思う!困ったと感じた時、真っ先にあなたの顔が浮かんだんだ。あなたにしかできないから、ぜひやってもらいたい。」どちらの頼み方が良いだろう。前者では、自分でなくてもいいように感じる。後者であれば、自分が必要とされている、と思える言い方になる。このような小さなことであっても、言い方ひとつで感じ方は違う。そしてその積み重ねにより、関係性は変わってくる。起業を支援するとき「あなたにしかできないことを自由にしていい」と言われれば、むりやりやらされているよりも、よりよいアイデアもでてくるといえる。

 

2 4人に1人が後期高齢者、変化し続ける先には…設計された出会いがもたらす可能性

 2025年になると、ちょっと前の当たり前が当たり前ではなくなる。

 かつて”下宿”と呼ばれたものも、今日では、対等な立場で助け合い、補い合う同居生活の“異世代ホームシェア”へと変化してきた。子どもたちはITやAIの進化等で、今は存在しない職に就く。そこには様々な可能性がある。

 人が出会って話し合っていくことが、新しい仕事を作るには欠かせない。文京ソーシャルイノベーションプラットホーム(文京区http://bunkyo-sip.jp/)の取組では、「何か地域の役にたちたい」という人たちが、仲間を見つけ、役割を見つけ、チャンスを探すことができる。図1のように、それぞれが机上で考えるだけでは事業は成立できない。

 企業・行政が潤滑油の役割を持って、仕組んでいくこと。

 新しいことをしたい人を支える環境をつくることが重要。

 

3 事業企画と事業構想

 平成27年、東京都福祉保健局は地域の住民やNPO、ボランティア団体等による支え合いの体制づくりとして、「いくつになっても、いきいきと暮らせるまちをつくる」を合言葉に、東京ホームタウンプロジェクト(http://hometown.metro.tokyo.jp)を立ち上げた。誰かの生活を良くするため、地域で孤立する人を減らすため、地域の中で自分の居場所を見つけるため、など、目的はそれぞれ違っている。主催者もそのコミュニティに住む人々すべてにある。うたの会、みまもりネットワーク、認知症の方の働くコミュニティcaféなど、高齢者の社会参加等を促進するプロジェクトも展開している。

 このなかでビジネスパーソンの力に特に注目している。活発な企業活動や多くの人材が持つ豊富な経験と知識といった強みは活性化へつなぐヒントを持っている。大きなNPO団体や企業は、都や県と組む方が特定の基礎自治体と組むより、連携を組みやすい。県の可能性は、国では遠すぎる、基礎自治体では近すぎる、県の役割が適当である。コンセプトを示し、活動するのは自治体で、「第三者の再評価」ができるのは県がちょうどよい。大きな流れにひっかかるよう「意味づけ」をし、良い取組のノウハウを県としてどう広めるか、広域的な視点を持てるようにすることが重要である。

 事業企画は市町村が行うもの。事業構想は県が行うもの。横のネットワークを丁寧に創り上げ、市町村同士の話し合いの場を提供することも県の行えることであるといえる。

 

4 地域活性化≠経済活性化

 東京のようなサービス消費都市を始め、先進国は経済資本である。長野では、米や野菜は親戚近所にもらうといったことは珍しくはない。これは、長野県の強みではないのか。よく地域活性化と言われるが、地域活性化は経済活性化といえるのか。世界遺産になって観光収入があればいいのか。そんな単純なお金儲けだけではいけない。

 

5 事業分析するにあたり

 過去の歴史の人物を見るとき、今現在残っている功績を見てから過去を振り返ってしまいがちである。なんでこの時こう始めて、こう判断したか。結末だけではなく、過去のその時の判断や選択をよく分析することで、未来に向けたヒントを得られるだろう。

 決断とは、絶つことを決めること。何か決定したということは何か他の事を棄てたとも考えられる。その状況を事例ヒアリングすると良いだろう。

 今すべきこと、10年後にすること、30年後にすることを意識して段階的に計画を進めていかなければならない。

 

〇 質疑応答より

 Q(質問)中山間地の支援を進めるうえで、県と市町村の役割分担と、現場への入り方はどのようか。

 A(広石)ある地域をモデルと位置付けて、市町村や現場地域とディスカッションしたうえで、県は取組をコンセプチュアル(概念的)に意味づけていく役割やその地域の課題解決に必要なリソースを国などから引っ張ってくる役割もあります。そして県として現場に入り論議に入るためには、仮説を持って臨むことが必要です。県と市町村の役割を端的に表現すると、基礎自治体は「事業企画」(具体)、県は「事業構想」(枠組み、概念)です。

 

 

 Q(質問)新たな立地場所として、企業が長野県を選択してくれるための条件とは

 A(広石)経営の上でかつての企業は「経済資本」という視点のみで事業に取り組んでいましたが、これからの企業はESGE=environment:環境、Ssustainable:持続性、Ggovernace:統治)あるいは「①財務資本」「②製造資本」「③人的資本」「④知的資本」「⑤社会関係資本」「⑥自然資本」という6つの資本を統合的にとらえていく姿勢が求められており、企業の在り方は大きく変化しつつあります。こう考えると企業は自社の取組みを環境や持続可能性、あるいは地域や社会との関係性の中でとらえられるようになっていくはずです。地域の側でこういう企業と価値を共有することができるような備えをすることで、これまでと異なる企業の選択の可能性が生まれます。東京都は平成24年度に「官民共同グリーンファンド」を創設しました。これは環境視点を持った事業開発を行う企業に対して、都が資金を供給するしくみで、長野県においても県としてたとえば「中山間地振興ファンド」のような備えを作ることで、その視点を共有してくれる企業を誘致していくような視点や役割が考えられます。

 

 Q(質問)これからの時代に県職員が求められる力量や役割とは

 A(広石)時代が求める課題に対する問いを行政がたてられるかどうかということが重要です。これからの時代に県職員が求められる力量は、社会や地域全体を俯瞰する力です。

 A(広石)地域や事例を分析する視点としてこれまでは結果から評価する「ルッキングバック」という視点が一般的でした。しかしこれからはその時々の課題に対してどのような判断を持って対処してきたのかというプロセスを追っていく「ルッキングフォワード」という考え方が必要です。

 

 Q(質問)中山間地域の交通政策を考えると、交通弱者特に高齢者が高齢による免許返納と公共交通機関の選択という方向になかなか向かないというジレンマがあります。

 A(広石)政策と県民一人ひとりを結び付けるには、一人ひとりの欲望から出発することがまず必要です。たとえばずっと家居でいるのではなく、週1~2回は外出したいという思いを持つ高齢者にどうしたらなれるかという視点が必要です。たとえば自分と同じ立場の友人たちと会うことで互いがハッピーになる、というような一人の欲望が皆の欲望となるような視点と交通政策を組み合わせていくことが必要です。

 

〇 キャリア開発センター所長の感想

 諸政策を組み立てるうえで、県職員の経験力が少ないことを課題ととらえています。 それは仕事と家庭の往復だけでない、地域や社会という、人の暮らしの基礎となるもう一つの場所とのつながりをつくり、そこに一人の人間としての楽しさや幸せを実感することができる経験です。

小諸市区長会研修会の講師を務めました 2017年10月5日

小諸市区長会研修会に招かれました

 10月5日(木)小諸市市民交流センターで行われた市区長会研修会で講演会講師を務めてきました。小諸市には68の区があり、区の単位ごとに分館も設置されています。区長会の主催でしたが、分館長の皆さんも含めて当日は80人ほどの参加者でお話を聞いていただきました。

 

〇 誰もが主役~小諸未来舞台

 演台に選ばせていただいた「誰もが主役~小諸未来舞台」は、本年度からスタートする飯田市総合計画のキャッチフレーズである「合言葉はムトス 誰もが主役 飯田未来舞台」から引用させていただきました。というのは飯田市役所職員へのキャッチフレーズの公募があり、私が応募したものがほぼそのまま採用されたということで、一応使わせていただく権利があるかな、ととらえています。

 元々は昭和23年3月、竜丘村公民館(現飯田市竜丘公民館)創立に合わせて刊行された「館報たつおか創刊号」に当時公民館教養部主事に就任された橋本玄進さん(本業はご住職)が「公民館は観客のいない芝居であり、裏方役も含めて全員が舞台側にいるのが公民館である」という趣旨の文章を発表されたことから引用しています。

 この日にお話ししたことの概要を以下にご紹介します。

 

〇 本日の話の主題

 「○○」をする。大事なことは、自らが当事者として企てる側に立つ人たちが増えることです。

 

〇 元気なまちづくりの現場から

 ▽ 島根県邑南町の事例から

 出羽地区で取組んでいる、空き家対策など地域の課題解決の活動に参加された方たちに対して、地域通貨を渡すことで、UIターン者の定住、経済の地域内循環など多彩な地域課題解決に取組む活動の元は、若い頃から公民館活動に取組んだことによる仲間の存在と、地域や社会を養うまなざしが育ったことにあります。

 

 ▽ 飯田市上久堅の事例から

 少子化対策を(しくみ)自前の財源による延長保育制度、(資金)住民有志による「子育て支援の会」が自前のファンドを創設、(意識づくり)公民館が呼びかけて、学校、親、自治会など地域の方たちが協働で子どもたちの体験活動を企画することを通して、子育て観を共有しています。

 こういう自治の取組みの延長に、地域が主体となって、行政を巻き込んでいく姿はお手本にしていきたいととらえています。

 地域の課題であるを自治の力で次のように総合的に進めています。

 

〇 大事にしたいこと

  1. 日常の暮らしから出発する
  2. 企てる側に立つ「○○する」側に立つことから
  3. 女性や若者に預けていく取組みを
  4. 参加をしてもらいたい相手は、企てるときから巻き込む
  5. 一人ではなく仲間と
  6. 閉じこもらずに交流を通して開いた地域・活動を

 

〇 県内を歩いて感じたこと「学び」と「自治力」あふれる長野県

 4月に県職員となってから、県内のいろいろな現場を歩く機会ができたが、どの地域を訪れても、魅力的な活動をしている現場があり、そこには地域の課題に向き合い、学びを土台にして、多くの仲間とともに取り組んでいる姿があります。そういう取組みが一層広がっていくことが、住みやすい長野県づくりにつながります。

 

 始まりは足元(区)から

 そういう地域づくりは、何よりも足元の地域(区)から始めていくことが大事です。

 

〇 盛り上がった懇親会

 懇親会の最中は、何人もの区長さんから私の話を受けてのご質問や意見を寄せていただき、お話ししたことがつながったことを実感しました。

 終了後は会場を移して有志による懇親会にも参加させていただきました。懇親会には小泉俊博小諸市長も参加されました。小諸市長はあいさつの中で、学びを通して次世代を育てていくことと、そういう次世代を育てながら足元の地域の自治の力を強めていくことの必要を強調されており、前段の研修会としっかり結びつく挨拶でした。

上田市公民館職員の皆さんと読書会を行いました 2017年10月2日

〇 コミュニティレストラン 松尾町フードサロン

 10月2日(月)夜、上田市松尾町フードサロンで、上田市公民館職員有志による読書会に県参与の船木成記さん、田中主事とともに参加しました。

 松尾町フードサロンは中心市街地に空き店舗を活用したコミュニティレストランです。コミュニティレストランは、食を通して地域や社会の課題を目指すことを目的としたレストランで、松尾町フードサロンはNPO法人食と農のまちづくりネットワークが運営しています。同法人が別の場所で運営する「コラボ食堂」は、ワンディシェフという方式で、安心な野菜を届けたい生産者、伝統食を次世代につなげたい高齢者、若い母親世代の交流機会など様々な動機で活用されています。

 

〇 読書会に至るまで

 この読書会は、上田市西部公民館次長の中村文昭さんの呼びかけではじまりました。公民館職員は現場で地域住民の皆さんをパートナーに様々な事業に取組むことで、現場感覚を養ういわばOJTを通して学び育っていますが、ややもすると忙しさにかまけて、事業の先に目指すものを忘れて、事業をこなすことが目的化してしまうこともありがちです。そこで、自分自身の仕事や考え方を、少し仕事から離れて見つめ直してみようということから読書会は発想されました。

 もう一つの背景は、長野県参与に船木さんが着任されたことです。船木さんは前職の尼崎顧問時代、船木ゼミとして、尼崎市職員の力量形成に関わる中で、尼崎職員有志の読書会のメンターも務めていました。そこで、船木さんをメンターとした読書会を行おうということになりました。

 現在のメンバーは上田市側は中村さんの他、中央公民館の関晴香さん、上野が丘公民館の山口美栄子さん、大塚美穂さんです。

 前回6月12日(月)に行った打合せの中で、どのようなテーマの読書会にしたいか話し合った結果、「多様なライフスタイルとその価値観の背景」「ジェンダーを切り口に現代社会の課題を学ぶ」「新しいリーダーシップを学ぶ」「人口減少と過疎化について、さまざまな考え方を知る」という3つの意見が出、船木さんから推薦された「豊かさとは何か(暉崎淑子:岩波新書)」「いのちの食卓(辰巳芳子:マガジンハウス)」「サーバントリーダーシップ(ロバート・K・グリーンリーフ:英治出版)」「あなたの中のリーダーへ(西永美恵子:英治出版)」「地方消滅(増田寛也中公新書)」「田園回帰1%戦略 地方に人と仕事を取り戻す(藤山浩:農文協)」の6冊が選ばれました。

 

〇 6冊の本のレポートから

 今回は、6冊のうちいずれかの本をそれぞれ読んでみて、簡単なレポートにまとめて紹介しあうこととしました。

 今回は本のすべてを読んで臨んだわけでなく、それぞれさわりを読んだうえで、それぞれの本の概要と自分がその本を選んだ理由を交換し合い、実際に読書会として取り上げる本の選定が目的でした。

 以下それぞれの本の内容を、生涯学習課の田中さんがまとめてくれましたので紹介します。

 

「いのちの食卓」 辰巳芳子(マガジンハウス)【田中】

  食事作りに時間をかけることの重要性について提案、現在の食文化に対する問題提起をする。

 家族のあり方、はそれぞれであり、時短料理も許容できるバランスを持つことが良いのではないか。

 

サーバントリーダーシップ」ロバート・K・グリーンリーフ(英治出版)【中村、山口、木下】

 小論文のまとまりのような哲学的な感触の本。自分の経験を振り返りしっくりくる言葉を見つけ出す心地よさがある。

 リーダーが独裁国家をつくるのではなく、フォロワーだけの集団にもならないようにすることが重要。皆が市長の頭で考え「これを成し遂げたのは我々だ」とチームで目標を達成する組織を作りたい。 サーバント型のリーダー像を描き、ビジョナリストになれるようにする。

 

「豊かさとは何か」暉崎淑子 (岩波書店)【山崎】

 1989年頃の本。その当時の日本と現代の日本、共通する課題への向き合い方について学ぶ。

 これを読んでどう感じるか、豊かさとは何か、幸せとはなにか、を個々の感性に問う。何に支えられ、どう人生をデザインするかを考えていかなければならない。

 

「田園回帰1パーセント戦略 地元に人と仕事を取り戻す」 藤山 浩(農文協)【関】

 人口問題ではなく、人生問題。「人口が減っても市町村はなくならない。無くなるのは自治体である。」という船木参与の言葉がとても印象的。本書と併せて「地方消滅」も読み進めると、対照的な面を理解できる。

 

○ 読書会を行うことの意味

 冒頭でご紹介したように、OJTとしての仕事の経験に加えて、自分や仕事について振り返る機会として、今回は読書会を試みてみましたが、今回の体験を通してこの会を行うことの意味をいくつか考えてみました。

 

  1. 一人で読むよりも他者の読み方と重ねてみることで、書かれている内容をより深く読み取ることができる。
  2. 本の内容の理解にとどまらず、自分や周りのこと、仕事のこと、自分たちが暮らしている地域や社会の在り方などを仲間とともに考えていく機会である。
  3. 読書会に集う参加者同士の考え方や生き方などを知りあうことを通して、共に学ぶ仲間としてのつながりが生まれる。
  4. 学ぶことを通して、仕事の仕方、自分自身の生き方を考える機会となる。

 

○ 次回から本格的に

 次回は12月に計画しています。「サーバントリーダーシップ」「豊かさとは何か」「田園回帰1パーセント戦略 地元に人と仕事を取り戻す」を二人チームで読みあって、一つのレポートにまとめて発表しあいます。

 船木さんのメンターとしての存在感がとても効いたひと時でした。

長野県公民館大会に参加しました 2017年9月28日

 9月28日(木)塩尻市文化センターで長野県公民館大会が始まりました初日は全体会と情報交換会が行われました。

 冒頭開会式では阿倍長野県知事からの大会に寄せたメッセージを代読させていただきました。ちょうど県議会中だったので知事は都合はつかないことは当初からわかっていたことでしたが、メッセージ性をできるだけ強く出したいという知事の希望もあり、代読の白羽の矢が当たりました。

 

〇 塩尻市のワインのお話

 

 全体会の前半は塩尻市職員の赤羽誠治さんによる「塩尻市のワインについて」ワインの歴史と塩尻ワインの歴史についてお話ししていただきました。

 ロビーでは塩尻産のワインの販売コーナーもあり、レア物も売られ、ワイン好きの参加者はしっかりと買い込んでいました。

 

〇 SCOP理事長 鷲見真一さんの基調講演から

 

 後半はSCOP理事長 鷲見真一さんの基調講演です。

 テーマは「『思い』を『学び』に『学び』を『行動』に~21世紀型の公民館へのバージョンアップ」です。

 鷲見さんは現在41才。信州大学在学中に大学の仲間の皆さんとSCOPを起業されたそうです。SCOPは地域課題解決と成長に寄与する、地域のための総合政策シンクタンクです。社会調査、研修企画、市民会議のワークショップ、プロモーション、各種コンサルなどで産業、医療福祉、地域公共交通、協働制度など分野も多彩です。これまで150プラン、800プロジェクト、1500の会議に関わってこられたそうです。

 県内でもこういう若い世代が仕事としてまちづくりに関わっているということ自体とても頼もしいと感じました。

 

〇 「思い」と「学び」と「仲間」の好循環が行動につながる

 

 鷲見さんは課題解決の取り組みが継続的に発展するためにはまず自分自身が考えるありたい姿を「思い」描き、その姿を実現していくための「学び」を進め、「思い」をともに実現する「仲間」の存在が必要と言います。

 

〇 「Will:やりたいこと」と「CAN:やれること」と「MUST:すべきこと」

 

 鷲見さんは、課題解決の行動の生まれるメカニズムをコップの水に例えます。

 それが「Will」やりたいことを明確にし「MUST」求められていることとつなげ、「CAN」それを実現することができる力をつけることで、人はやる気が生まれ、コップの水があふれるように行動が生まれるといいます。

 

〇 そういう動きに寄り添うためのファシリテーション

 

 地域においてこういう動きが形になるための役割としてファシリテーターの存在が必要です。公民館で言えば公民館長や公民館主事かそれに当たるでしょうか。

 ファシリテーションとは「中立な立場で、チームのプロセスを管理し、チームワークを引き出し、そのチームの成果が最大となるよう支援する仕事」です。

 大事なのは結果ではなく、取り組みのプロセスや取り組みのプロセスで生まれるコミニケーションです。先生や司会者というより、支援者、促進役、産婆役という言葉が当てはまります。

 

〇 SWOT分析に基づいた新しい公民館像探しを

 

 それぞれの公民館で自分たちの「強み」「弱み」「機会」「脅威」を分析整理して、その中から今の時代や地域に求められる公民館像を考えるための学びを、地域住民とともに創りあげていきましょう。

 

〇 求められる構造的視点

 

 3月まで飯田市の公民館で仕事をし、地域住民の皆さんに育てられながら頑張る主事の姿を見てきました。一つ一つの取り組みを必ず振り返り次の仕事につなげていく、という仕事の仕方は身に付いてきましたが、地域や課題を構造的に見る力が課題ととらえていました。

 その意味で本日のSCOP鷲見さんの話は、とても大事な視点を与えていただいたととらえています。

 

〇 二日目は10のテーマごとの分科会

 

 長野県大会二日目は午前中、10の分科会が行われました。今年は中信地区公民館運営協 議会がチーム で大会の受け入れをしてくれましたが、分科会のうち7つは中信地区各市町村の皆さんによる企画です。

 テーマは「分館・自治公民館の可能性」「地域を育てる講座づくり」「ニュースポーツ普及による地域づくりと地域活性化」「公民館(地域)と子どもの関わり」「伝統文化を通じた文化の伝承と人材育成」「ジオパークの活動を通じて」「住民の施設利用(貸館)について考える」「身近なコミュニティ施設が支える住民自治力」などでそれぞれ公民館での実践に基づいた意見交換が行われました。

 このうち私は第10分科会「身近なコミュニティ施設が支える住民自治力」にファシリテーターとして参加しました。

 

〇 地域のつながりの中で人を育てる公民館

 

 分科会前半は東京大学高齢社会総合研究機構の荻野亮吾さんによる発表が行われました。

 ▽ 社会関係資本とは

 

 飯田に限らず公民館に共通して必要とされるのが「社会関係資本」を形成する役割といわれます。

 社会関係資本には「人と人のつながり」と「人と人とのあいだで共有された規範や信頼を伴う関係性」を意味します。

 社会関係資本には「個人あるいは一人のレベルでは実現が困難なことを可能にする機能」と「これが豊かな地域はそうでない地域と比べ、政治や経済、治安、健康の状態が良くなる傾向があること」が知られています。

 

 ▽ 公民館が持つ人材育成の機能

 

 荻野さんは東京大学牧野研究室の一員として、8年間共同研究に取り組んでいます。

 飯田市では日本最大の人形劇の祭典「いいだ人形劇フェスタ」、都市の修学旅行生を農家に泊めて農業体験などを提供する「体験教育旅行」、市民主体の中心市街地の活性化に取り組む「飯田まちづくりカンパニー」など、ユニークな試みを多彩に全国に発信しています。

 これらは「飯田モデル」といわれ、「まちづくりの主役は住民であり、行政はそれを支える黒子に徹するもの」という共通の考え方を持つ取り組みです。

 この考え方は、専門委員会や分館など住民自身が公民館の運営の主体で公民館主事は住民主体の活動を支える存在である、という公民館の姿が原点です。

 

▽ 公民館の果たしている役割

 

 荻野さんは、飯田の公民館には自治の担い手である「人材を育成する機能」「地域課題の学習を通して、課題発見・解決に取り組む団体を育成する機能」「学校をはじめとした地域の諸機関を結びける機能」があるとまとめてくれました。

 

▽ 皆が必要と感じる事業づくりを

 

 荻野さんの報告を受けて参加者同士グループに別れて意見交換を行いました。意見交換の発言を受けてた荻野さんのコメントをご紹介します。

 「発言の中で行事や事業が多いことで役員の負担感がある、という意見にたいしては、その事業の多寡よりもむしろその事業が地域にとって必要ととらえられているのか、若しくは事業の企画をするメンバー同士が納得するような話し合いを積んでいるのか、が大事です。」

 「若い世代の参加が少ないという課題については、一方では高齢社会を迎える中で、高齢世代の力が発揮できる場はまだまだ必要である、という視点と、若い人たちに自分たちの活動を継承してもらおうというだけでなく、若い人たちにゼロから任せて彼らがやってみたいことを造り出すことを見守る視点も大事です。」

 

 ▽ 学びの力を社会全体に広げたい

 

 分科会には長野県参与の船木成記さんにも参加していただきましたが、最後に次のようなコメントをしていただきました。

 「4月より長野県参与として長野県は何を誇れるのか、インナーブランディングの仕事に取り組んでいます。その中で長野県民に共通して誇ることのできるのは学習する力ではないかと感じています。これは今の時代には大変重要な力です。こういう力が日本社会全体に広がることで、少子高齢人口現象をはじめとした地域や社会の解決に結び付いていくのだと考えています。」

 「現在東京都のベテランの保健師の皆さんとの学習会に参加していますが、その方たちが共通して発言するのは、健康予防の活動で何よりも大切なのは自主グループづくりだそうです。グループの中で人は育ち、そういうグループの運営を支えるのが保健師の仕事だそうです。公民館主事の皆さんにも共通するととらえています。」

 ▽ 初めての試み「公民館をめぐる課題を考える」

 

 これまで長野県公民館大会の分科会は、各地区の実践事例に基づいて意見交換を行う形がほとんどでした。しかしこの分科会は、公民館をめぐる課題について話し合う内容でした。参加された方たちの立場や地域の状況も異なることから、なかなか共通したまとめには至りませんでしたが、これからも公民館をめぐる課題をテーマとした分科会は是非実施していけることを期待しています。

ボランティアコーディネート力検定研修会に参加しました 2017年9月24日

 9月24日(日)塩尻市で行われたボランティアコーディネーション力検定講習会に参加しました。

 〇 ボランティアコーディネーション検定力講習会について

 主催は長野県社会福祉協議会と、NPO法人ボランティアコーディネーター協会です。 

 この講習会に参加した動機は、4月に長野市に赴任してから出会う方たちの中に、公民館主事のお手本のような活動や姿勢を持つ方たちに良く出会ったことにあります。特に来年3月3日(土)、4日(日)に長野市で開催される全国ボランティアコーディネーター研究集会の実行委員となり、出会った県内実行委員の皆さん一人ひとりが大変バイタリティがあり魅力的な方々で、ボランティアコーディネートと公民館主事の仕事に強い親和性を感じています。

 今回検定講習会に参加したのは、具体的にボランティアコーディネート力がどのようなものなのかを知ることがねらいです。

 講習会講師の筒井のり子さんは竜谷大学教授、日本NPOセンター代表理事の早瀬昇さんとともに検定講習会のテキストでもある「ボランティアコーディネーション力(中央法規)」を執筆されています。筒井さんご自身は学生時代からボランティアサークルの運営に関わり、1995年の阪神淡路大震災では仲間たちと多くのボランティアと被災現場をつなぐ活動をされた経験を持たれています。

 ボランティアコーディネーターというと福祉分野の仕事ととらえられがちですが、ボランタリーな市民活動の現場や、行政や企業とボランティアを結ぶ場面など多彩な役割のある活動です。

 ボランティアコーディネーター協会は、市民が主役の地域や社会づくりを進めようという志を持つ人たちにより設立され、同じ考え方や力量を持つ人たちを広げていくことをねらって設けられたのが「ボランティアコーディネーション力検定」です。現在3級が3,655人、2級が463人、1級が70人登録されています。3級試験は5時間の事前研修と筆記試験、2級はボランティアコーディネートの経験を持つことが条件で、2日間の事前研修と筆記試験が必要です。ただし資格ではなく、検定試験の受験は、自分自身のコーディネーション力を高めることが目的です。

〇 ボランティアコーディネーターの歴史

 ボランティアコーディネーターという役割が紹介され、その必要性が論じ始められたのは1970年代、1976年日本で初めてのコーディネーター講座は大阪ボランティア協会が開講しました。 1980年代はボランティア及びボランティアセンターへの過剰な期待が高まることに対して、専門性が模索され始めました。そして1990年代後半、阪神・淡路大震災の経験から、ボランティアコーディネーターの存在と、その必要性への理解が広がるとともに、社会福祉生涯学習の分野で、ボランティアコーディネーターの研修体系づくりが進められるようになりました。そして1998年特定非営利活動法人法が成立し、地域や社会の課題解決を自らが主体となって進める市民活動の広がりを受けて、2001年ボランティアコーディネーター協会は設立されました

〇 ボランティアコーディネーター基本指針~求める価値と果たすべき役割

 ボランティアコーディネーターについて、その社会的認知が広がらない、組織の中でその役割が理解されず位置づけがあいまいであるという課題に対し、専門性の中身を分かりやすい言葉で明文化しようと、2004年、環境、福祉、教育など様々な分野で活動するコーディネーターが一堂に会し話し合いの中からまとめられたのが「ボランティアコーディネーター基本指針~求める価値と果たすべき役割」です。

 基本指針は「どのような社会を目指すのか」「どのようにボランティアをとらえるのか」「どのようにボランティアと向き合うのか」「どのようなボランティアコーディネーションを行うのか」という4つの視点で構成されています。

〇 どのような社会を目指すのか

 「一人ひとりが、自由な意見・自分らしい生き方が尊重される社会」

 「一人ひとりが自分の力を活かせる社会」

 「一人ひとりが弱さを分かち合える社会」

 「一人ひとりが役割を持ち対等な関係で働ける社会」

 「多様な文化を認め合えるグローバルな社会」

 「人々が協働して社会の課題に取組む社会」

 「人々が自由に社会づくりに参画できる社会」

 「結果のみでなく、決めるプロセスを大切にする社会」

 「公立のみを優先させるのではなく、豊かな人間関係を作り出す社会」

 「自然環境を守り、命を受け継ぐことのできる持続可能な社会」

 〇 どのようにボランティアをとらえるのか

 ボランティアは

 「市民社会を構成する担い手である」

 「自分の意志で始める」

 「自分の関心のある活動を自由に選べる」

 「活動に対して責任を持ちその役割を果たす」

 「共感を活動のエネルギーにする」

 「金銭によらないやりがいと成果を求める」

 「活動を通して自らの新たな役割を見出す」

 「活動を通して異なる社会の文化を理解する」

 「活動に新しい視点や提案を示し行動する」

 「安価な労働力ではなく、無限の創造力である」

 〇 どのようにボランティアと向き合うのか

 「ボランティアの意志を確認し、希望を尊重する」

 「ボランティアひとりひとりの経験や関心、活動動悸を尊重する」

 「ボランティアひとりひとりの中にある力や可能性を信じる」

 「ボランティアに共感する気持ちを伝える」

 「ボランティアの多様な意見や考え方を受容し、活かす姿勢を持つ」

 「ボランティアとコーディネーターは対等であるという自覚を持つ」

 「ボランティアとコーディネーターの役割の違いを認識する」

 「豊富な情報、社会資源のネットワークを用意しておく」

 「ボランティアが新たな課題や活動に挑戦することを応援する」

 「ボランティアと課題を共有し、ともに考える姿勢を持つ」

 

〇 どのようなボランティアディネーションを行うのか

 「ボランティアが活動を通して市民として成熟していくプロセスを大切にし、それを支える」

 「ボランティアの動機やニーズ、得意分野などをていねいに聴き、活動の選択に役立つ情報や資源を提供する」

 「ボランティアコーディネーター自身がビジョンや社会観を持ち、ボランティアや関係者に対して分かりやすく発信する」

 「人と人、人と組織を対等につなぎ、一方的な人間関係や上下関係などが生じないように調整を図る」

 「ボランティアの力が活かされるような環境を作り、活動への意欲が高まるよう工夫する」

 「個々の活動、それぞれの団体の発展にとどまらず、他者と協働する意義に着目し、ネットワークづくりを推進する」

 「ボランティア同士が問題意識を共有する場を作り、双方向の議論によって互いに学びあい、あらたな課題の発見につなげる」

 「ボランティアを社会づくりや組織活動・運営の重要な構成員として認識し、活動の企画や実施、評価に参加できる仕組みを作る」

 「ボランティアの問題提起や提案を広く受け止め、解決に向けてともに活動(プログラム)を開発する」

 「困難な課題を社会に開き、多様な人々が出会い、話し合う場をつくることによって、より良い社会の創造に向かう」

 

〇 公民館主事に置き換えてみる

 上記の指針のうちボランティアを「住民」、ボランティアコーディネーターを「公民館主事」に置き換えてみると、多くの表現がそのままあてはまるととらえました。

 ただし、飯田型公民館のように公民館の運営の主体が住民であり、公民館が住民自治の担い手として育つ場、ととらえると、ボランティアという概念とは少しずれがあるようにとらえています。とはいえ、自発性や社会性を大事にするという姿勢は共通しています。

 また自治体や企業の組織運営にも共通する指摘が多くあります。その意味ではボランティアコーディネーターという仕事分野にとどまらずに、多くの人たちが学ぶ価値のある内容であるととらえました。

〇 まずは実践、そして振り返りの機会として

 今回の研修を受けて感じたのは、まずは自分自身がコーディネーター役としての実践を重ねていることが大事であり、そういう実践を重ねれば重ねるほど、この研修が振り返りの場として有意義になるということです。

 現在、次年度に向けて公民館主事の力量を高めるための研修プログラムを立案中ですが、ぜひボランティアコーディネーターとのつながりを模索していきたいと思います。