中山間地PJで、広石拓司さんの研修会が行われました 2017年10月10日

〇 empublic広石拓司氏による県庁職員研修会

 

 10月10日(火)県庁で「中山間地域の住民力・地域力による社会的事業支援研究会」が主催する㈱empublic広石拓司氏の研修会に参加しました。

 参加者は、標記プロジェクトを構成する地域振興課、農村振興課、楽園信州・移住推進室、交通政策課、文化財生涯学習課の他、職員キャリア開発センター、創業・サービス産業振興室、人材育成課、都市・まちづくり課など、各分野で人材育成を課題としている課が横断的に集う場となりました。

 

〇 船木参与より

 

 本日は人材育成に関わる様々な課が横断的に集う場となりました。これからの県の事業が、固定した各部局ごとの役割分担型でなく、その時々のテーマに応じて関係した部局が集うプロジェクトベース型で、かつそこがチームとして進めていくことができるようになることを期待しています。

 長野県としてこれまでは中山間地域は遅れている地域というとらえ方をしてきました。そして国は中山間地域の中で頑張っている地域だけを拾っていこうという政策を進めています。

 そうではなく中山間地域を自然との共生や農ある暮らしなど、人々が暮らすうえでの知恵の集積された地域ととらえ、そういう地域の課題に向き合いながら持続可能な地域として再生させていく、という考え方が必要です。これからは中山間地域をクリエイティブ・フロンティアととらえていきたいと考えています。

 また長野県は平成の大合併において小規模の町村の多くが残り、現在77の市町村があります。これはより身近なコミュニティ単位で自治体が残っており、それだけ住民自治と団体自治の距離が近いということでもあります。

 一方自治体の規模が小規模であるということは、小規模自治体は人的にも財政的にも限られた中で政策を進めざるを得ず、こういう基礎自治体で手の入らないところに県が支えていくという視点を持って関わっていくことが必要です。

 こういう基礎自治体や住民自治の取組みを県として支えるためには、県職員のリテラシー(あり方)自身を変えていくことが必要です。本日キャリア開発センター所長に参加していただいた意味はここにあります。

 

〇広石さんの講義から(文化財生涯学習課 田中さんのメモです)

1 「あなたの力が必要なんです」 起業家の支援

 何かを始めようとするとき、初めに口火を切ることや、手を挙げることには戸惑いが多い。なぜなら、反対されるのではと考えてしまうから。なぜ反対されると感じるのか。それは、協力し合える関係が築かれていないから。

 例えば、何かイベントがあったとして人員不足で困ったなぁというとき、どう周りにお願いするだろう。「人がいないの、困ってるの、とにかく誰でもいいから助けてほしい!!」と手伝ってもらう。または、「あなたならこの仕事に適任だと思う!困ったと感じた時、真っ先にあなたの顔が浮かんだんだ。あなたにしかできないから、ぜひやってもらいたい。」どちらの頼み方が良いだろう。前者では、自分でなくてもいいように感じる。後者であれば、自分が必要とされている、と思える言い方になる。このような小さなことであっても、言い方ひとつで感じ方は違う。そしてその積み重ねにより、関係性は変わってくる。起業を支援するとき「あなたにしかできないことを自由にしていい」と言われれば、むりやりやらされているよりも、よりよいアイデアもでてくるといえる。

 

2 4人に1人が後期高齢者、変化し続ける先には…設計された出会いがもたらす可能性

 2025年になると、ちょっと前の当たり前が当たり前ではなくなる。

 かつて”下宿”と呼ばれたものも、今日では、対等な立場で助け合い、補い合う同居生活の“異世代ホームシェア”へと変化してきた。子どもたちはITやAIの進化等で、今は存在しない職に就く。そこには様々な可能性がある。

 人が出会って話し合っていくことが、新しい仕事を作るには欠かせない。文京ソーシャルイノベーションプラットホーム(文京区http://bunkyo-sip.jp/)の取組では、「何か地域の役にたちたい」という人たちが、仲間を見つけ、役割を見つけ、チャンスを探すことができる。図1のように、それぞれが机上で考えるだけでは事業は成立できない。

 企業・行政が潤滑油の役割を持って、仕組んでいくこと。

 新しいことをしたい人を支える環境をつくることが重要。

 

3 事業企画と事業構想

 平成27年、東京都福祉保健局は地域の住民やNPO、ボランティア団体等による支え合いの体制づくりとして、「いくつになっても、いきいきと暮らせるまちをつくる」を合言葉に、東京ホームタウンプロジェクト(http://hometown.metro.tokyo.jp)を立ち上げた。誰かの生活を良くするため、地域で孤立する人を減らすため、地域の中で自分の居場所を見つけるため、など、目的はそれぞれ違っている。主催者もそのコミュニティに住む人々すべてにある。うたの会、みまもりネットワーク、認知症の方の働くコミュニティcaféなど、高齢者の社会参加等を促進するプロジェクトも展開している。

 このなかでビジネスパーソンの力に特に注目している。活発な企業活動や多くの人材が持つ豊富な経験と知識といった強みは活性化へつなぐヒントを持っている。大きなNPO団体や企業は、都や県と組む方が特定の基礎自治体と組むより、連携を組みやすい。県の可能性は、国では遠すぎる、基礎自治体では近すぎる、県の役割が適当である。コンセプトを示し、活動するのは自治体で、「第三者の再評価」ができるのは県がちょうどよい。大きな流れにひっかかるよう「意味づけ」をし、良い取組のノウハウを県としてどう広めるか、広域的な視点を持てるようにすることが重要である。

 事業企画は市町村が行うもの。事業構想は県が行うもの。横のネットワークを丁寧に創り上げ、市町村同士の話し合いの場を提供することも県の行えることであるといえる。

 

4 地域活性化≠経済活性化

 東京のようなサービス消費都市を始め、先進国は経済資本である。長野では、米や野菜は親戚近所にもらうといったことは珍しくはない。これは、長野県の強みではないのか。よく地域活性化と言われるが、地域活性化は経済活性化といえるのか。世界遺産になって観光収入があればいいのか。そんな単純なお金儲けだけではいけない。

 

5 事業分析するにあたり

 過去の歴史の人物を見るとき、今現在残っている功績を見てから過去を振り返ってしまいがちである。なんでこの時こう始めて、こう判断したか。結末だけではなく、過去のその時の判断や選択をよく分析することで、未来に向けたヒントを得られるだろう。

 決断とは、絶つことを決めること。何か決定したということは何か他の事を棄てたとも考えられる。その状況を事例ヒアリングすると良いだろう。

 今すべきこと、10年後にすること、30年後にすることを意識して段階的に計画を進めていかなければならない。

 

〇 質疑応答より

 Q(質問)中山間地の支援を進めるうえで、県と市町村の役割分担と、現場への入り方はどのようか。

 A(広石)ある地域をモデルと位置付けて、市町村や現場地域とディスカッションしたうえで、県は取組をコンセプチュアル(概念的)に意味づけていく役割やその地域の課題解決に必要なリソースを国などから引っ張ってくる役割もあります。そして県として現場に入り論議に入るためには、仮説を持って臨むことが必要です。県と市町村の役割を端的に表現すると、基礎自治体は「事業企画」(具体)、県は「事業構想」(枠組み、概念)です。

 

 

 Q(質問)新たな立地場所として、企業が長野県を選択してくれるための条件とは

 A(広石)経営の上でかつての企業は「経済資本」という視点のみで事業に取り組んでいましたが、これからの企業はESGE=environment:環境、Ssustainable:持続性、Ggovernace:統治)あるいは「①財務資本」「②製造資本」「③人的資本」「④知的資本」「⑤社会関係資本」「⑥自然資本」という6つの資本を統合的にとらえていく姿勢が求められており、企業の在り方は大きく変化しつつあります。こう考えると企業は自社の取組みを環境や持続可能性、あるいは地域や社会との関係性の中でとらえられるようになっていくはずです。地域の側でこういう企業と価値を共有することができるような備えをすることで、これまでと異なる企業の選択の可能性が生まれます。東京都は平成24年度に「官民共同グリーンファンド」を創設しました。これは環境視点を持った事業開発を行う企業に対して、都が資金を供給するしくみで、長野県においても県としてたとえば「中山間地振興ファンド」のような備えを作ることで、その視点を共有してくれる企業を誘致していくような視点や役割が考えられます。

 

 Q(質問)これからの時代に県職員が求められる力量や役割とは

 A(広石)時代が求める課題に対する問いを行政がたてられるかどうかということが重要です。これからの時代に県職員が求められる力量は、社会や地域全体を俯瞰する力です。

 A(広石)地域や事例を分析する視点としてこれまでは結果から評価する「ルッキングバック」という視点が一般的でした。しかしこれからはその時々の課題に対してどのような判断を持って対処してきたのかというプロセスを追っていく「ルッキングフォワード」という考え方が必要です。

 

 Q(質問)中山間地域の交通政策を考えると、交通弱者特に高齢者が高齢による免許返納と公共交通機関の選択という方向になかなか向かないというジレンマがあります。

 A(広石)政策と県民一人ひとりを結び付けるには、一人ひとりの欲望から出発することがまず必要です。たとえばずっと家居でいるのではなく、週1~2回は外出したいという思いを持つ高齢者にどうしたらなれるかという視点が必要です。たとえば自分と同じ立場の友人たちと会うことで互いがハッピーになる、というような一人の欲望が皆の欲望となるような視点と交通政策を組み合わせていくことが必要です。

 

〇 キャリア開発センター所長の感想

 諸政策を組み立てるうえで、県職員の経験力が少ないことを課題ととらえています。 それは仕事と家庭の往復だけでない、地域や社会という、人の暮らしの基礎となるもう一つの場所とのつながりをつくり、そこに一人の人間としての楽しさや幸せを実感することができる経験です。