飯田市公民館高校生講座カンボジアスタディツアー報告会に参加しました 2017年6月3日

 6月3日(土)飯田市松尾公民館で行われた飯田市公民館が主催する「高校生講座カンボジアスタディツアー報告会」に参加してきました。

 当日は、100人近くの参加者がありましたが、高校生のご家族、講座に関心を持つ高校生、高校の先生、ふるさと南信州緑の基金のメンバー、公民館主事などのほか横浜や和歌山から関心を持ってかけつけた方もいました。

概要は次の通りです。

 

  • 講座開催の趣旨 

 

 「いろいろな価値観、考え方を持つ仲間と一緒に、異なるものにふれながら、自分の在り方・生き方を考える」。この講座のねらいです。昨年10月から始まったこの講座は、次の3つのステップで組み立てられています。今年は飯田下伊那の6校から14人の高校生たちが参加しました。

  • ものさしづくり 

 

 10月から旅たちの3月までの半年をかけて、高校生たちはふるさと飯田のことを学びます。これはカンボジアでの様々な体験のもととなる、自分たちのものさしを作ることがねらいです。牧野光朗飯田市長による講義をスタートに、高校生たちは自分たちで興味を持ったテーマにたいして3つのグループに分かれて学習を積み重ねました。今年のテーマは「遠山郷」「人形劇」「和菓子」です。

  • 異文化体験 

 

 3月23日から29日まで実際にカンボジアを訪問し、自分たちが生まれ育ったふるさとと全く異なる土地で異文化を体験します。このツアーは途上国でのスタディツアーを提供する「ピースインツアー」が主催しています。現地添乗員の佐々木愛さんは、かつてカンボジアの孤児院のスタッフを務めていた方です。ツアーにはふるさと南信州緑の基金のメンバーの皆さんも同行してくれます。緑の基金は、20年間の年月をかけて、カンボジアシュムリアップに「飯田小学校」を建設するほか、ポルポト政権によって破壊されたカンボジア教育の再建支援を続けています。

  • 鏡効果 

 

 帰国後約2ヶ月をかけて、高校生たちはこれまでの自分たちの経験を振り返ります。カンボジアでの体験を鏡とし、飯田での体験、メンバー一人一人の感じたことを重ねることで、ものの見方や考え方を深めてきました。

  • 笑顔の背景

 「遠山郷」をテーマとしたグループは「笑顔の背景」について考えました。カンボジアで高校生たちは、バイヨン中学校、飯田小学校、スナーダイクマエ孤児院、プレイモンティ小学校を訪れました。どの施設でも出会った子どもたちは笑顔で迎えてくれました。

 ポルポト政権下、知識階級の大虐殺が行われましたが、それは農民出身のポルポトが、自分の考えを国民全体に押し付けるために知識階級の存在が邪魔であったためだそうです。教師も知識階級ですから、そういう教師竜に教育を受けてこなかった子どもたちが親となり、自分自身が教育の大切さを、身をもって感じることができなかったことが、子どもたちへの教育の必要を理解できない親となる、という悪循環が子どもたちの就学率の低さに結び付いているそうです。

 そして自分たちにできることを3つにまとめました。

 一つは、自分たちのはまだまだ知らないことが多く、視野を広げるために常にいろいろなことに関心を持つこと。

 2つ目は自分の考えを広げるために自分の考えに固定せずに相手の考えをしっかり聞くこと。

 3つ目は自分自身で限界を定めてしまわずに、いろいろなことに挑戦する姿勢を持つこと。

 

 高校生たちは遠山郷で頑張る人たちとカンボジアの子どもたちを重ねて考えてみました。遠山郷は山間地の占める割合が98%と閉鎖的な場所です。暮らしは不便ですが、隣近所のつながりを大事にし、霜月まつりでは皆が本気になって祭りを盛り上げています。カンボジアの子どもたちは学校に行くこと自体が自分にとって幸せなことととらえていることから学校生活を一生懸命楽しみ、興味や関心を持って過ごしています。高校生たちは笑顔の背景をこのようにとらえました。

 一方、まち中で幼い子ども達が当たり前のように働いている姿を目の当たりにしました。そこでカンボジアの子どもたちの就学率を調べたところ、小学校を卒業できない子が全体の31%、中学校は83%、高校は90%にも達したそうです。現在カンボジアでは小中学校は義務制となっているそうですが、それでも多くの子どもたちが学校に通っていないのは、2つの理由があるためだそうです。一つは家庭が貧しく子どもたちも労働力としてあてにされているため、もう一つは子どもが学校で学ぶことの大切さを親が理解できていないためだそうです。

 報告会は3つのグループごとに行われました。

 自立ということ彼らは「自立」について考えました。バイヨン中学校の校長先生のチアさんは、ポルポト政権の虐殺から日本に逃れ、苦労して学校で学びました。そしてカンボジアの子どもたちを貧困の連鎖から解放し、自立した人として育つための教育に尽力しています。飯田で人形劇について学んでいた時、三日市場の人形劇団の中心人物である久保田さんにお話を聞きに行ったとき、久保田さんは高校生たちが来る前に、自分たちがどんなことを学ぼうとしているのかをつないでくれた公民館主事から聞いたうえで応対してくれました。久保田さんと話をすると、ご自分の家族、人形劇団のメンバーなどへの思いやりを感じたそうです。 

 

 グループの高校生たちは「自立」を次のように考えました。一つは自分自身の考えを持ち行動できること。もう一つは周りのことをしっかり見ることのできること。カンボジアの子どもたちのことを学ぶ中で、自分たちはそもそも一人で生きていきことは出来ないということが見えてきました。スナーダイクマエ孤児院では小さな子どもたちが自立していくために年の大きな子どもたちが支えています。

 けれども博子さんやチアさんのようにカンボジアの子どもたちが人として自立することができるために自身の人生をかけている人たちの頑張りもすべてのカンボジアの子どもたちには届いていません。

 日本人のメヤス博子さんが運営しているスナーダイクマエ孤児院のスナーダイクマエとは「カンボジア人の手によって」を意味するそうです。カンボジアでは孤児数は減っているものの、孤児院は増えているそうです。それは孤児院の運営に支給される国のお金を当てにしているため。博子さんにとって孤児院の運営を行う上で大事にしているのは子どもたちの自立。孤児院を始めたころ、子どもたちは身の回りを掃除することもせず、ゴミもほったらかしだったそうです。そこで博子さんはまず自分が先だって施設の掃除を始めました。そういう姿を見て次第に子どもたちの行動が変わっていったそうです。

 「人形劇」をテーマとしたグループは、伝統人形芝居の黒田人形と、伊賀良三日市場分館の人形劇団スリーディマーケットシアターについて調べました。

 幸せについて彼らは「幸せ」について考えました。信頼関係のある状態が一番の幸せ、そしてもらった幸せは返していく。幸せを与えられる人は自己中心的ではなく相手のことを思いやることができる人。一二三屋さんがまんじゅうを買ってくれたお客様に必ずおまけのおまんじゅうをつけてくれるのはお客様とのつながりを大事にしているから、やさしさの心をつなげていくことが幸せを作っていくことではないか、と考えました。

 

 スナーダイクマエのメヤス博子さんは「子どもの笑顔の裏側を見てほしい」と話してくれました。ある子どもは家庭で母親の虐待を受けていました。けれども孤児院ではとても素敵な笑顔を見せてくれます。そこには孤児院の中は安心という信頼関係があるからです。

 「和菓子」をテーマとはたグループは、一二三屋さんと田月さんのところを訪れました。

 高校生たちの発表を受けた参加者の皆さんからの感想です。

 

 高校生たちの報告から、インターナショナルという言葉を実感しました。カンボジアとふるさとでの体験をつなげて考えた高校生たちの報告は文字通り国(ナショナル)をつなげる(インター)取り組みです。

 代田昭久飯田市教育長 

 

 カンボジアへの支援活動をこれまで続けてきた、ふるさと南信州緑の基金の皆さんがともに旅していただいたことで、高校生の皆さんの学びも深くなったと思います。多世代の皆さんが交流することで、高校生たちだけでは気づかない視点を与えてくれたと思います。

 佐藤健飯田市副市長 

 

 例えば自立という言葉の意味にまわりの人たちとのつながりを考えた高校生たちの振り返りは、人生の本質に迫ろうとする学びであり、これは例えば障がい者の自立、過疎地の自立を考える時にも通じます。これだけ深い学びが高校生として行うことができたことに驚きを感じます。

 牧野光朗飯田市長  

 私たちの予想をはるかに超える学びの成果があったと感じました。14人の仲間同士の経験、それを支えてくれた地域の皆さんの存在、そして異文化の体験、これらは高校生の皆さんにとって間違いなく一生の財産になることでしょう。 

 高校生たちのアクティブラーニングまさに「主体的で、対話的で深い学び=アクティブラーニング」の実践を目の当たりにすることができました。社会教育の力を強く感じることができた報告会でした。

 

 

 ここで忘れてならないのは彼らに寄り添ってきた公民館主事たちの働きです。高校生たちの言葉の中から大事な言葉を拾い出し、それを皆で共有していくファシリテーターとしての存在が高校生たちの学びを深めるために大変力になったととらえています。

 飯田とカンボジア、二つの異なる文化とそこで生きる人々との出会いの中で、高校生たちは二つの経験を自分たちなりにつなげながら、14人の仲間たち自身でその共通点を見つけ出すために、話し合いを重ねて本日の報告会に至りました。