中山間地域PJ 進雄太先生の講義をお聞きしました 2017年11月16日

 

 11月16日(木)県庁で「第1回中山間地域の住民力・地域力による社会的事業支援研究会 『小さな拠点』分科会」が行われました。長野県は平成30年度にスタートする総合計画の取組みの柱の一つとして、中山間地域の活性化支援を掲げ、その取組みの準備を進めています。

 この日の研究会は、取組みを進めるエンジン役であり、企画振興部地域振興課が主管し、交通政策課、農村振興課、農業政策課、文化財生涯学習課という部局横断的な体制に加えて、オブザーバーとしてJA長野県くらしのセンター、船木参与、有識者として東京大学大学院工学研究科の新雄太特任助教が参加して進められました。

 2014年5月日本創成会議から出された人口予測により、全国半数近い市町村の「消滅可能性」が示され、その多くが中山間地域であることから、中山間地域は遅れた地、あるいは切り捨てられる地、ととらえられる傾向が加速しました。このことに対して、明治大学の小田切徳美教授は「中山間地域は消滅しない」(岩波新書)を発行し、都市の暮らしから中山間地域の暮らしを選び移住する動きを「田園回帰」と呼び、消滅可能性を指摘された中山間地域の中に、そういう人々の動きを受け入れる地域が多く生まれている事実を指摘しました。

 長野県は中山間地域を、古くから知恵ある暮らしを蓄積してきた地域であり、これからの時代を切り拓く魅力に富んだ地「クリエイティブフロンティア」と表し、中山間地域が魅力ある地域として持続していくための支援を進めることとしました。

 

〇 東京大学 新雄太先生による上田市真田の取組みプロセス

 

 今回は東京大学の新雄太先生を講師に、「真田の郷まちづくり推進会議設立の軌跡」をテーマにお話しいただきました。

 上田市真田は平成の合併前は真田町であり、人口は1万人強の地域です。上田市は平成の合併を契機に、上田市内各地域や編入された地域が自立的・持続的なまちとなるために、住民主体のまちづくりを進めようと、地域ごとに住民自治組織の設置にむけた準備を進めています。

 新先生は上田市担当者から依頼を受け、組織化のファシリテーターとしてこの取組みに関わりました。

 上田市の地域自治組織の取組みは行政側からの提案であることから、地域住民の皆さんにとってはやらされ感の強い話であることから出発しましたが、新さんは取組みを進める中核組織である「真田町まちづくり準備会」に参加した30数人のメンバーによる話し合いを、1年間で21回も積み重ねることで、住民主体の取組みの実現を支えられたそうです。

 

○ 「守り」と「攻める」の土台に必要な「学びと育ち」

 私は昨年度から、九州大学の八木信一先生、東京大学の荻野亮吾先生とともに、飯田市をフィールドに「自治の質量」調査に取組んでいます。

 「自治の質量」とは、八木先生の定義された言葉で、住民自治と団体自治のバランスを指します。地方分権の動きの中で国は地方公共団体への権限の委譲を中心に、団体自治に注力してきました。その結果として両者のバランスがより団体自治に寄る傾向が強くなっていました。そこで近年は住民自治の機能強化をねらって、地域運営組織の設立支援に取組み始めています。

 地域運営組織について総務省は「地域の暮らしを守るため、地域で暮らす人が中心となって形成され、地域課題の解決に向けた取組みを持続的に実践する組織。具体的には、従来の自治・相互扶助活動(守る組織)に加えて、一歩踏み出した活動(攻める組織)を行う」と定義しています。

 新先生のお話をお聞きして、「守り」と「攻め」はあくまで枠組みであり、それらを実現するプロセスとして「学び・育ち」という概念を加えることが必要ではないかととらえました。

 

○  プロセスは住民自治・協働・団体自治

 上田の事例は、行政からの提案で住民による自治の拡充を進めようというプロセスですが、本来的な自治はベクトルが反対なのではないかととらえています。

 それは前提として、地域は、地域に暮らす人自らが治めるものであるということから出発することが必要ということです。

 そして、地域の中だけでは解決できない課題が生まれた時、地域から行政にその課題を発信し、課題解決に向けた地域住民と行政が話し合うプロセスを協働ととらえます。

 そして協働のプロセスの中で地域では解決できないことを行政が政策化していく、つまり本来のプロセスは住民自治→協働→団体自治であると考えています。

 しかし肝心の住民自治が機能していない状況を解決するために、そこに「人々の学びを通した、自治の担い手としての育ちのプロセス」が前提として必要になると考えています。

 長野県の場合は公民館が自治の担い手が育つ学びのプロセスを実現する場となることが、中山間地域がクリエイティブフロンティアとなるための大事な要素ではないかととらえていますし、そこに私の仕事があるのではないかと考えています。