東信地区公民館運営協議会研修会の講師を務めました 2017年11月17日

 11月17日、東信地区公民館運営協議会の講師を務めました。テーマは「公民館は、村を育つる慈母である」です。

 

 

〇 自治の担い手が育つ公民館

 

 

 参加者は45人、東信地区公民館職員の皆さんに加えて、小諸市からは分館長や主事の皆さんも参加されました。

 テーマは「公民館は村を育てる慈母である~地域づくりと公民館」公民館を自治の担い手が育つ場ととらえ、具体的な事例を通して公民館のあり方や自治の担い手を支える公民館職員に求められる役についてお話ししました。

 

〇 上久堅の取り組みから自治と公民館の役割を考える

 

 冒頭で、飯田市上久堅地区の「食工房 十三(とさ)の里」と「子育て支援」の取り組みについて紹介しました。

 このうち「子育て支援」は平成14年、上久堅自治会だよりに当時の自治振興センター所長が少子高齢人口減少が進む地区の将来の厳しさを提起しました。

 この事に衝撃を受けた当時の自治会長が地域の若手メンバー8人を「少子化問題対策委員」に委嘱し、一年間12回の会議を重ね、「子育て環境の充実」「若者定住対策」「IUターン者の受け入れ」など6つの提言を行いました。

 これが上久堅地区の少子化対策の出発点になりました。

 

〇 延長保育と学童保育を重ねる

 

 子育て世代が移住や転居を選択するきっかけの多くは、子どもの進学など子育ての条件にあるようです。

 上久堅地区にある上久堅保育園には延長保育はなく、当時地区の共働き世帯は、飯田への通勤途中にある下久堅保育園に子どもを預けていました。このことにより上久堅保育園の園児数が減り、公立とはいえ、経営的に険しい状況におかれていました。

 当時の自治会は、保育園を存続させるためには、上久堅保育園でも延長保育を受け入れることとし、それにより園児数を確保することが必要ではないか、という結論に達しました。

 しかし飯田市としては延長保育のニーズの高い地域を優先せざるを得ません。

 そこで地区の自治会は市と話し合い、市と協力して次のような仕組みで延長保育を実現させました。

 それはまず小学校の学童保育と延長保育を合体させることで、職員体制を確保させること。

 そして延長保育に必要な費用の一部を地区と保護者が負担すること。

 延長保育と学童保育を合体して運営する児童クラブを市は保育園を隣接して建設し、管理は地区が責任を持つこと。

 子育てのための資金を調達するために、住民有志により子育て支援の会を設立し、会員の会費により必要な資金を捻出すること。

 子育て支援の会は会員数は83人、年会費が6,000円で年間予算は約50万円。

 このお金を延長保育のための人件費の一部や児童クラブ建物の管理費に充てるほか、保育園や小学校入学時の祝い金や、保育園や小学校のでの備品購入補助などに充てます。

 〇 担い手は公民館で育つ

 

 上久堅地区の自治会(今はまちづくり委員会)の役員はたいてい若い頃は公民館活動や地域づくりの活動に関わっています。その中で地域の将来について考えたり、皆が力を合わせてものごとを達成していく経験を積んでいます。

 そういう人々の「意識化」や「組織化」が公民館の大事な役割だととらえています。

今回の講演テーマとした「公民館は村を育てる慈母である」ということばは、昭和23年3月竜丘村公民館(現在の飯田市竜丘公民館)開設記念の日に、当時の竜丘村村長の「村政は村を育てる厳父であり、公民館は村を育てる慈母である」 というあいさつからの引用です。

 〇 地域にとっても行政にとっても意義がある「自治の質量」

 

 昨年度から九州大学の八木信一先生と東京大学の荻野先生と共同で自治の質量飯田調査を行っています。「自治の質量」は住民自治と団体自治のバランスのとれた状態をさす、八木先生の定義した言葉です。

 まず住民自治により地域の課題を自分たちで解決しようという取り組みがあり、そこで自分たちだけでは解決できないと判断したときに、行政を巻き込み、できない部分を行政にあずけます。このプロセスが協働です。そして行政はあずけられた課題を政策化します。このことにより行政はより効果的・効率的に予算を執行することができますも

上久堅地区の子育て支援の取り組みはそのモデルとも言える例です。

〇 自治の支え手としての行政・行政職員

 

 上久堅地区の取り組みに対し行政は、既存の飯田市の制度や解釈を、地域のニーズを受け止めて柔軟に制度を変更しました。これからの行政にはこういう柔らかいスタンスが求められます。

 実は行政側の担当者は元公民館主事でした。公民館主事として地域の方たちと日常的につながりながら仕事をしてきた経験が、一般行政に異動したあとも「住民自治ファースト」の姿勢をもった仕事ぶりにつながっています。

 つまり公民館主事の経験は、これからの自治体職員に必要な資質や力量をつける場であるということです。

〇 住民自治→協働→団体自治

 

 国は自治の質量を高めるために、全国各地に地域運営組織の設置を奨励しています。

 地域運営組織は国や自治体主導でつくられようとしていますが、上久堅地区の例のように本来は住民発でつくられるものだと考えています。

〇 「守り」と「攻め」の前に「学び」が必要

 

 地域運営組織は総務省の定義によれば、従来の自治会活動を「守り」とすれば、その事に加えて新たな課題解決に挑戦できる「攻め」の姿勢を持つ組織だそうです。

 しかしこれらはあくまで枠組です。そこに至るプロセスが必要です。それが「学び」だととらえています。

 これからの公民館には、自治の担い手や支え手が育つ場や役割がいっそう求められるのではないかと考えています。