日本公共政策学会で飯田の取り組みを報告しました 2017年6月17日、18日

〇 日本公共政策学会で飯田モデルについての研究を発表

 6月17日(土)、18日(日)富山大学で日本公共政策学会2017年研究大会が行われました。このうち17日に九州大学八木信一先生、東京大学荻野亮吾先生とともに、自由公募セッションの場で「まちづくりにおける『飯田モデル』の検証~地域自治組織の導入前後における『自治の質量』の変化の視点から」いうテーマで報告の機会をいただきました。また討論者として京都大学の諸富徹先生と北九州市立大学の森裕亮先生も参加されました。

 八木先生は2014年に飯田市で開催した「解体新書塾」以来、荻野先生は2010年から継続している東京大学との共同研究依頼のつながりで、現在の研究は昨年度から取り組んでいます。

 八木先生は地方財政学や環境政策が専門でもともと、おひさま進歩エネルギーの取組に象徴される、環境ビジネスの取組に着目されて飯田調査に取組んでおられたのですが、人形劇フェスタ、体験教育旅行、航空宇宙産業クラスター、まちづくりカンパニー、環境モデル都市など時代に先駆けた多彩な仕組みを発信する飯田市の取組の土台に、自治の担い手と支え手が育つ、公民館・自治振興センター・まちづくり委員会の機能と役割に着目されました。

 そこで共同研究者として人々の学びや育ちの側面から、飯田とのかかわりの深い荻野先生が加わり、調査を進めていただきました。

 

〇 初年度の調査地は丸山、山本、上久堅

 調査地は旧飯田市地区の丸山、地域内に中央自動車道が走り開発や工場誘致も進んでいる郊外地の山本、高齢少子化の進む中山間地の上久堅を選び、昨年度は10月と12月の2回調査を実施し、10月は地域自治組織としてのまちづくり委員会と公民館の組織と活動について、12月は地域自治組織の外にある地域づくりグループの活動と地域自治組織の関係性について調査を行いました。

 それぞれの地区では次のような調査が行われました。

 丸山地区では地域のシンボルである風越山(かざこしやま)を題材に、公民館活動から誕生した「風越山を愛する会」の活動が起点となり、丸山地区基本構想・基本計画の柱の一つとして計画された「風越山わくわくプロジェクト」の実現に向けた、まちづくり委員会や公民館がハブとなり、地域の諸団体をつなげていく取組みについて聞き取りを行いました。

 山本地区では、再生可能エネルギーを地域が主体となり地域に還元する「地域環境権」という新しい考え方を生み出した「飯田市再生可能エネルギーの導入による持続可能な地域づくりに関する条例」の考え方を受けて、まちづくり委員会がハブとなり地域の公共施設に積極的に太陽光発電事業を導入している取組みと、廃校となった旧中学校の活用を進めるグループ「杵腹学校応援団」を、公民館や地域づくり委員会が支える取組みについて聞き取りを行いました。

 上久堅地区では、少子高齢人口減少の進む地域の課題である少子化と高齢化に向き合う地区の取組みについて聞き取りを行いました。少子化については、子どもたちの減少による保育園や学校の存続の問題に対し、地域で話し合いを重ねて、公立保育園の延長保育と学童クラブを地域が出資して人を雇用し手取組んでいる事例や、地域住民約100人が参加して出産や入園・入学祝いや学校や地域の子ども育成の取組みに出資する「子育て支援の会」の取組み。高齢化については、JAの空き店舗を活用し、高齢者に向けた配食サービスを提供する女性たちの活動「食工房 十三(とさ)の里」の取組みについて聞き取りを行いました。

 〇 九州大学八木先生の報告から~飯田の特徴は、地域と行政を結ぶ橋渡し機能

 八木先生は飯田市の地域自治組織の特徴について4つの特徴まとめていただきました。

  1. 地域自治組織の構成が、市の組織である地域自治区だけでなく、住民組織であるまちづくり委員会を含めて地域自治組織としており、特にまちづくり委員会の位置づけが大きい。
  2. まちづくり委員会が従来の自治会などの自治活動組織をもとに選出されて委員にやって構成されており、地域の実情に合わせた専門委員会が設けられている。
  3. まちづくりの「飯田モデル」で重要な役割を果たしてきた公民館のうち、地区公民館をまちづくり委員会の中に組み入れている。
  4. 従来の支所を自治振興センターと名称変更し、地域協議会の事務局としてだけでなく、まちづくり委員会の事務局としても位置付けている。また地区公民館に配置されている主事はセンターの職員を兼務している。

 八木先生は国の一連の地方自治・財政改革が地方公共団体に権限を預ける団体自治の強化充実を中心に進められており、住民自治の底上げについての政策がこれまで薄かったことを指摘し、飯田の場合行政と地域をつなぐ橋渡し機能として自治振興センター・公民館に職員を配置して地域住民による自治活動を支えることが、自治体の行財政にとっても有効に働いているのではないか、という仮説を指摘されています。

 

 東京大学荻野先生の報告から~地域を守るまちづくり委員会、守る人が育つ公民館

 〇 荻野先生は調査の中から公民館の役割について次のようにまとめていただきました。

 「人材育成」:公民館の活動を通して、住民自治・団体自治双方の担い手や住民自治をめぐる関係性を豊富化する役割。

 「団体育成」;地域課題の学習を通して、課題発見・解決に取り組むサークルやグループを生み出す役割。

 「関係形成」:地域の機関(特に教育関係)や団体を結び付ける役割。

 「水平的な関係を豊富にする」:住民の間や住民と市職員の間での立場を超えた水平的な関係性を豊富にする役割。

 まちづくり委員会については次のようにまとめていただきました。

 「行政内の垂直粋な関係」:公民館と比べて行政との間での垂直的な関係性が強く、地区における課題の把握や、課題の集約を行い、行政の関連部署へ伝達していく役割が重視されている。

 「所長の役割」:地区に関係する課題提起や、情報の収集・提供、関係性構築において、処置用の役割が大きい。

 

〇 公民館は住民と職員の力量形成の場

 お二人の報告を受けて、私からは公民館分館の役員や、地区公民館の専門委員の経験を通した、自治の担い手としての住民の皆さんの力量形成と、地域住民との協働の現場でのOJTや公民館主事会としてOFFJTの場における公民館主事たちの力量形成について具体的な事例に基づいて報告しました。

 

 以上の発表を受けてお二人の先生から指摘や質問をいただきました。

〇 北九州市立大学森裕亮先生の指摘から

  1. 地域自治組織の設立によって自治の質量がどのように変化したのか
  2. まちづくり委員会と結び付いたことで公民館の位置づけや役割はどのように変化したのか

 

〇 京都大学諸富徹先生の指摘から

 おひさま進歩、体験教育旅行、人形劇フェスタ、まちづくり会社など飯田から様々な新たな取り組みが発信されているが、その土台ともいうべき地域自治組織について、学問的に解明されておらず、そこに踏み込んだという意味でもこの調査の意義は大きい。

  1. 飯田モデルが他地域にも移転できるかという一般化の可能性はどうか
  2. 地域自治組織の財源は市からの交付金と、地域住民からの負担金で構成されているが、組織として自主的に財源を確保していく取組みについて

 

 私たちの報告は「自由公募セッション」という枠で他にも2つのセッションがありましたが、70人ほどの参加があり、報告終了後にも大勢の方たちから話をかけられ、大勢の方たちに強い関心を持っていただく機会になりました。

 本年度も研究は続きます。