東信地区学者融合フォーラムに参加しました 2017年10月26日

 10月26日(木)佐久市佐久平交流センターで学社融合フォーラムが開催されました。

 今年で6年目を迎えるこの会は、教育事務所のほか、東信地区の市町村教育委員会、社会教育委員会議、公民館運営審議会、市長中学校教員、PTA、幼稚園や保育園など、200人を超える多様な参加者でにぎわいました。

 

〇 シンポジウム「私たちの子どもたち 子どもたちの未来」

 

 フォーラム前半は、「私たちの子どもたち 子どもたちの未来」をテーマに、長野大学の早坂淳さんと、上田市教育委員会の伴美佐子さんによる対談が行われました。

 ▽ 子どもたちが真ん中

 

 冒頭でお二人の一番好きな言葉を紹介していただきました。伴さんは「子どもたちが真ん中」。学校ボランティアの皆さんにありがちな姿として、活動が自己満足になりがちですが、そうではなく、「子どもたちが真ん中」で大人たちがいる、そういう姿勢を大事にしたいという意味です。

 ▽ どの子もわが子

 

 早坂さんは、上田市塩田小学校を訪れた時、コミュニティスクールの標語として紹介されていた「どの子もわが子」という言葉が心に残っているそうです。

  ▽ 学校協働活動で学校が変わる

 

 これまでは「学校支援」という言葉が使われてきましたが、今年3月の社会教育法の改正で、5条の社会教育事業の一つに「学校地域協働活動」が加えられました。学校支援はあくまで学校が主体で、地域の方たちは支え手という関係です。これに対して学校地域協働活動は、学校も地域も、子どもたちがよりよく育つために共に主体となるというという関係です。

 そしてそういう取組みの中心に社会教育が据えられています。このためには地域も学校も変わっていくことが求められます。

  ▽ 「教習所型」と「共同体型」学校の2つの姿

 

 1872年学制が発布され、それまでは各地域で実践されていた「村人を育てる」寺子屋などに代わり、「国民を育てる」ための義務教育制度が誕生しました。

 世界の公教育には大きく分けて「教習所型」と「共同体型」という2つのスタイルがあります。

 ドイツでは学校は午前中だけでその内容も学力をつけるための学習内容に限定され、給食もなく、午後は、地域に多様に設けられている、子どもたちの興味関心に応じてスポーツクラブに参加したり、手仕事を学ぶ職人学校などの中から自身の希望する活動に参加します。

 ヨーロッパから留学した学生が日本の学校を訪問して「運動会」「修学旅行」「部活動」などの存在がなぜあるのか不思議に思うそうですが、それは「1 教習所型」として学力を獲得するという特定の目的のために学校があるというドイツなどヨーロッパにある学校の姿と対極にある、「共同体型」であることに起因しているそうです。

 「教習所型」は日本、韓国、中国など東アジアに特徴的な学校の姿だそうです。

  ▽ いじめの背景

 

 ヨーロッパからの留学生にとって、「いじめ」という言葉をなかなか理解できないそうです。

 早坂さんは、「いじめ」は、「自らが選んだわけでない組織の中に、中長期的に身を置く中で行き詰った人間関係の中で発生しうる」というメカニズムがあるといいます。

 たとえばドイツの場合であれば、午前中の人間関係で行き詰っても、午後の自分の意志で参加する諸活動が逃げ場になっており、ヨーロッパの学生にとっては行き詰った人間関係から「逃げてしまえばよい」という発想が生まれるそうです。こういう逃げ場を日本のような共同体型の学校でつくることは難しいのではないでしょうか。

 ▽ 社会の変化~少子高齢人口減少

 

 上田市で一番高齢化の進んでいる地域は65歳以上の高齢者の割合が61.2%、これに対してこの1年で減少した子どもの数は226人、中規模の学校1校分の子どもが減少しています。日本はいまだかつてない少子高齢人口減少社会の中にあります。

  ▽ SOCIETY5

 

 これは人類の発展段階を表す概念です。

 SOCIETY1は、人類が誕生したといわれる300万年前から始まる狩猟採集社会です。

 SOCIETY2は、1万年前、自分たちで食料を育てる文化農耕社会の誕生です。

 SOCIETY3は、250年前、イギリスから発生した産業社会、蒸気機関車の誕生などで、人々の行動範囲が飛躍的に広がりました。

 SOCIETY4は、22年前、インターネットが普及しはじめた情報社会、このことにより地球の裏側にいる人とも瞬時につながり、あわせて情報を受けるだけでなく自らが発信できるようになりました。

 SOCIETY5は、現在おこりつつある、AIの登場。これまで人の仕事とされていたうちの49%はAIにとって代わられるであろうといわれます。

 SOCITY5の時代は、従前のような学校教育だけでは、子どもたちが社会の中で生きるために必要な力を育てることができません。

 そういう子どもたちを育てるためにまず変わらなければならないのは私たち大人自身です。

 ▽ 今までの子ども→これからの子ども「多様な人々と協働し、新しい価値を生み出すことができる力」

 

 今までの子どもは、与えられる課題に取組む受け身の姿勢でした。この時大人たちはあらかじめ答えを知っており、大人たちが子どもたちに答えを導いていくことができます。

 これからの子どもたちには、社会の変化に対して、主体的に向き合い、自分で答えを見つけていく力が求められます。この時大人たちには答えは用意できませんから、むしろ子どもたちの主体的な活動をフォローしていく姿勢が必要となります。

 ▽ これまでの学校→これからの学校

 

 これまでの学校は、答えの決まった問題を効率的に解く練習を積む場でした。

 これからの学校は、こういう基礎的な学力の養成に加えて、子どもたちに答えのない問題に向き合わせていくことが必要となります。

 また、これまでの学校は、すでにある文化を伝承し、再生産する場でした。

 しかしこれからの学校は、このことに加えて、新しい価値を創造する場となることが必要となります。

 ▽ AIではできない人と人との協働力を育むこと

 

 AIはすべてをAI自身で解決するわけですから逆に、他者と力を合わせて解決するという力はありません。これが私たち人間がAIを超えることのできる一番の力です。

 そう考えると、学校、子ども、地域、保護者たちのつながり、住民同士のつながり、行政とのつながりなど、多様な人や組織それぞれが当事者・主体者となり、力を合わせて子どもたちの育ちに向かっていくことができるように、あらゆるものが変わっていくことが必要です。

 ▽ 地域が関わり子どもが変わる

 

 伴さんが塩田小学校のコーディネーターであったころの例を紹介してくれました。

やんちゃな子どもが学校ボランティアに参加してくれていたおばちゃんの原付バイクを倒して傷つけてしまいました。先生は子どもに謝らせようとしましたが、子どもはふてくされていました。

 そのときおばちゃんは、バイクを倒してしまったその子に「けがはなかったかい」と声をかけました。その子は悪いことをしたという自覚はあったのでしょう。怒られるとばかり思っていたその子にとって、自分の体のことを心配してくれたおばちゃんに対して涙を流して「ゴメンナサイ」と本心から謝ってくれました。

 こういう地域の方たちと子どもたちの関わりが広がっていくことで、子どもたちはよく育つのではないかと思います。

 ▽ 地域に根付く地域と学校が連携した取組み

 

 後半は「佐久市野沢小学校コミュニティスクールの取組み」「小諸市で学校・地域・家庭が一体となって取り組むスクールズマーケット」「東御市立北御牧保育園の子どもの体力向上の取組み」「上田市城南公民館の子どもをネットトラブルから守る取組み」「下諏訪町のコミュニティスクールの取組み」をテーマとした5つの分科会に分かれて研究協議が進められました。

 私は佐久市の取組みの分科会に参加しましたが、6人ごとに分かれたグループには、小中学校の先生や、コミュニティスクール運営委員、社会教育委員などで、多彩な参加者でこのフォーラムが開催されたことに、地域と学校の連携や、コミュニティスクールが次第に地域の中に根付いている様子を実感する機会でした。